これは、「はじめに」でもあるように、心理学の入門本でもないし、教科書でもない。しかし、そうした教科書と呼ばれるものに出てくる、これまた古典的な研究成果について、最新の知見を交えつつ、批判を繰り広げていく。
心理学の世界にはびこる「古いものは良いことだ信仰」をザックザックと斬っていく書き方は読んでいて爽快だった。
本書で一番印象深かったのは最終章で繰り広げられる日本の臨床心理学への批判。
日本ではなぜか心理学の臨床実践に関する部分では、「臨床心理学」なる学問と、「心理臨床学」なる学問が併存している。
なぜ、このような違いが出てきたのか、何が今日の日本の臨床心理学の問題なのか、歴史的な背景も踏まえつつ解説されている。
その中で紹介されている厳然たる事実や著者の結論は、おそらく臨床心理学を大学院で学ぼうとしている大学生には耳の痛い話だろう。
ただ、こうした日本の臨床を取り巻く現状も知らずに、指定大学院を出て資格試験をパスしただけの「名ばかり臨床心理士」のようなものがどんどん生産されていくことへの警鐘でもあって、読んでいて唸らされた。
本書は心理学の持つモヤモヤ感に切り込んでいくもので、文体が、これまた毒舌、シニカルで面白く、読みやすい。
また、心理学を科学の一つと考えたとき、ものを言うには科学的な証拠が必要という点が強調されている。
臨床にしろ、基礎的な心理学を学ぶにしろ、科学として心理学を研究するならば、この点を忘れてはいけないことを、思い知らせてくれる1冊だった。
- 感想投稿日 : 2011年8月19日
- 読了日 : 2011年5月7日
- 本棚登録日 : 2011年8月19日
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