さよなら渓谷 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2010年11月29日発売)
3.51
  • (121)
  • (405)
  • (400)
  • (91)
  • (13)
本棚登録 : 2924
感想 : 336
5

前作の「悪人」は、読んだあとでいろいろ考えてしまう作品でしたが読み応えはあった。

今回は東北の女児殺人事件をモチーフにはされているんですが、ストーリーはそれが本題ではない。

記者の渡辺は自分の息子を殺した母親の取材のために何日も市営団地の前に張り込んでいる。
ターゲットである立花里美の隣家に住む夫婦とも顔見知りになったが、ふとしたきっかけでその夫婦の秘密を知ることになり・・・

仕事仲間の須田が偶然現場で尾崎を見つけて声をかけているところを目にしたことから渡辺は尾崎夫婦の秘密を知ってしまう。

隣に住む尾崎夫婦は実は夫婦ではなく、ある事件の加害者と被害者。
須田も実は事件の加害者の一人。

15年前に起きたその事件に加担した加害者のうち人生が変わった者もいれば、さほどマイナスになった者もいないという、人の運の不公平が出ていて何ともやりきれない気持ちになる。

被害者だった尾崎の妻は事件がきっかけで両親ともうまくいかず、人生をやり直す意味で結婚にふみきろうとしてもやはり事件が原因で結婚直前までいった彼と別れることになる。
やっとその傷も癒えて結婚しても今度は夫から事件のことを責められてDVを受けて入院したりと転落の人生の一途を辿っていて・・・

一方の尾崎は社会的な制裁を受けたけれども、先輩に引き抜かれて一流の会社に入り、会社でもそのことを非難されることなく着実に出世の階段を登っていた。

罪を犯した自分がこういう人生を送ってもいいのかと自問自答しながら被害者に対して後ろめたい思いで、彼女が今幸せにしていればいいと都合のいいことを思いながら日々を送っていた尾崎。
そんな彼が、あるとき偶然に被害者だった女性に出会う。

尾崎が想像していたよりも遥かに悲惨な人生を送ってきた彼女をみて、『自分は幸せになってはいけない。彼女のそばにいなければいけない』と思う尾崎。

尾崎は彼女がイヤがるにも関わらずそばにいるようになり、いつしか二人は「(自分は)幸せになってはいけない」という気持ちで結ばれ、一緒に暮らすように・・・

読んでて切なくなった。
記者の渡辺が二人にかけたい言葉を私も言いたいところですが、それを言ってしまうと何だか二人の絆が別のものになってしまうようで・・・

彼女が尾崎と一緒にいて幸せだと感じてしまうことは、尾崎を赦すことになり、そしてもう尾崎を縛り付けておくものは何もなくなってしまう。

ラストで彼女は一つの選択をするんですが、それは尾崎との関係を大切に思って行動したんじゃないかなと思います。

読了感はまあ悪くないです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2014年4月30日
読了日 : 2008年8月20日
本棚登録日 : 2014年4月12日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする