2119 9 29 (ショコラ文庫)

著者 :
  • 心交社 (2017年7月7日発売)
4.26
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本棚登録 : 265
感想 : 27
4

▼あらすじ
人間に尽くす精巧なアンドロイド"ドール"との結婚という阿部 孝嗣の夢は、人を模したドールの製造が禁止された大学時代に潰えた。けれど三十八歳になった今も愛は変わらず、独身で童貞を貫いている。ある日、阿部は家業のレストランの常連客から、存在自体が罪となる美しい裏ドールを託される。彼の名は高嶺。無愛想で反抗的というドールにあるまじき彼の態度を不思議に思いながらも、憧れの存在との同居生活に阿部は胸をときめかせるが――。

***

★4.5
凪良先生の作品を読むのはこれで10冊目です。
『雨降りvega』以来、凪良先生の作品からは遠ざかっていたのですが、今回、久し振りに凪良先生の作品を読もうと決めたこの作品。
『ショートケーキの苺にはさわらないで』という作品のスピンオフらしいですが、ショートケーキの方を読んでいなくても楽しめると聞いたので未読のままこちらを読みました。

凪良先生の作品は今まで面白くなかった試しがなく、一度読んだら忘れられないお話ばかりなので今回はどんな世界を見せてくれるのだろうとワクワクしながら本を開いたのですが、まず攻めのキャラクターが思ってたのと違い過ぎて吃驚してしまいました(笑)
ショートケーキの方を読んでいないので、表紙のイメージから勝手に堅物系のキャラだと思い込んでいたのですが、実際に蓋を開けてみたら元おデブな上に38歳にして童貞、一人称「俺氏」で、一昔前のオタクのように語尾に「〜である」「〜であります」を付けて喋る個性的過ぎるキャラクターで、正直、初めは戸惑いました(笑)
(私も今まで結構な数のBL小説を読んできましたが、こういうタイプの攻めは初めてです笑)

でも、次第に愛着が湧いてくるんですよね。
最初こそ「この喋り方はいつまで続くんだ?^^;」と思っていましたが、読み進める内に慣れ、阿部の優しくて誠実な人柄に惹かれていく自分がいる事に気が付きました。
特別かっこいい訳でもスペックが高い訳でもないのですが、非常に親しみを持てるキャラクターで、純粋に好きだなあと思いました。(美優に対する阿部の行動や言動も感動するくらい好感が持てました)

そして肝心なストーリーの方も期待していた通り、最初から最後までしっかりと厚みが感じられる読み応えバッチリな内容でした。
ただ、前半のボリュームと比べてラストは少し駆け足気味だったように感じましたし、結末だけに関して言えば私の苦手とするタイプのものだったなあ…と。
ショートケーキの方は最終的に攻めが受けと同じアンドロイドになる事で永遠の愛を手に入れたようですが、こちらはその真逆を行く結末で、阿部は人間として高嶺に見守られながら人生を全うする事になります。
そして高嶺も、阿部をしっかりと見送ってから最期を迎え、目を閉じる寸前に見たカレンダーの日付がタイトルの意味に繋がるのですが…正直、読み終わった後は何とも言えない気持ちでした。

他の方のレビューを見ると、泣いたという方が多いみたいですが、私は泣くまでには至らなかったです。
いや、決して感動しなかった訳ではないんです。
分かっていてもラストの一文は鳥肌が立ちましたし、最後の方は何度も何度も繰り返し読み返しました。
上手く言葉に言い表せないのですが、例えるならある日突然大切な人を失くしてしまって、悲しいのに涙が出ない…喪失感の方が大きくて上手く感情の整理がつかない…そんな感じです。
阿部を見送り、一人残された高嶺が阿部が天国に行けるようひたすら祈るシーンなんて切な過ぎて胸が苦しくなるほどでした。

いかにしても、心に深く残ったのは作品である事には間違いありません。
ただ読んで終わりというのではなく、“愛”について考えさせられる深みのあるストーリーでした。
今回の作品を読んで改めて、凪良先生は読者の心を掴むお話を書くのが天才的に上手く、特に感動系のお話を書かせたら右に出る者はいないのではないかと思いました。
主人公と相手が結ばれても「二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」で終わるような純粋なハッピーエンドはない為、悲しさも勿論ありますがそれでも読んで良かったと思える素晴らしい作品でした。

最後に、裏ドールでありながら暴力団に籍を置いていた芝がとても気になったので、いつか芝とリョウのお話も読んでみたいと思いました。
先生ならきっと書いてくれるはず…!待ってます!

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: サイン本
感想投稿日 : 2017年7月13日
読了日 : 2017年7月12日
本棚登録日 : 2017年7月12日

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