暦物語 (古典新訳文庫)

  • 光文社 (2016年2月9日発売)
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本書は1949年に出版されたブレヒトの『暦物語』を2016年に光文社の古典新訳文庫として刊行したものだ。1898年生まれのブレヒトはドイツの劇作家、演出家、詩人である。彼は1917年、19歳の時ミュンヘン大学に入学する。主に演劇のゼミに参加していた。翌1918年、20歳の時には第一次世界大戦終了までの1ヶ月間をアウクスブルク陸戦病院で衛生兵として働く。その後1933年まで、ドイツにて多くの劇作品や詩を発表する。この年、ナチスが政権を掌握した後、北欧に亡命する。1941年にはさらにアメリカへ亡命する。そして1949年、第二次大戦後再びドイツに戻って来る。その年、出版されたのがこの本だ。全部で17編、短編が9、詩が7、小咄集が1つだ。『暦物語』というタイトルは民衆のために暦に書かれていた「おもしろくてタメになる短い話」(本書288頁)から来ている。冒頭の『アウクスブルクの白墨の輪』は最後まで読めば、ドイツ版の大岡裁きだ。しかし、30年戦争という戦時下の出来事、侵略と略奪から話が始まる。その次の『ユダヤ人相手の娼婦、マリーザンダースのバラード』はまさにブレヒトが亡命し、第二次世界大戦の契機ともなったナチスへの皮肉だ。その後、仏陀やベーコン、カエサル、ソクラテス等の歴史上の偉人たちが登場する話も一見、ちょっとした話(つまりは暦物語)に見える。しかし、以下のフレーズはそんな短編から抜粋したものだ。「資本という爆撃機の編隊」(本書60頁)、「異端審問所」(本書93頁)、「軍需産業は熱に浮かされたように戦争の準備をしている」(本書134頁)、「戦争に勝てば、下の人間までがしばらくは好戦主義者になる」(本書211頁)。こうしたフレーズが当時、どの程度のインパクトのある言葉だったのか。ブレヒトの生きた時代は、二つの大戦と亡命の日々だった。彼にとって当たり前だった生活を反映しているのか、ナチス批判、大戦、体制への批判や皮肉が頻出する。平和な現代と約70年という時代を隔てたズレ、つまりは「暦」のズレ。そのズレをちょっと考えるには、本書はちょうどいい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2016年4月26日
読了日 : 2016年4月19日
本棚登録日 : 2016年4月19日

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