フエンテスのメキシコにどっぷりはまれる一冊。お金持ちのつけ過ぎた香水と貧乏人の家の饐えた食べ物の臭いが同時に立ち上ってくるような、映画を見ているような臨場感のある小説だった。寺尾隆吉さんが今の言葉で訳しているおかげでいっそう生々しい。
1940年代を基点に過去を振り返りつつ、革命をきっかけに身を落とした者、成り上がった者、何も変わらずぎりぎりの暮らしをする者たちが描かれる。主旋律はリアリズムながら、意味不明の呪文みたいな文章がはさまってくるところに「おれの祖国メキシコて何なの」というフエンテスの熱いこだわりが感じられた。
ほとんどの登場人物は典型的な貴族・成金・庶民なんだけど、例外的なのがイスカとテオドゥラ。テオドゥラは家族のお墓の上に住んでるし(メキシコシティ内ですよ)イスカは瞳の色が変わるし、どうにも妖怪じみている。そして最後の最後に突然のホラー展開! ずっとリアリズムで書いておきながら、話を動かす大本に真っ黒な太母的なものをもってくるところが、とても好みな話だった。やっぱりフエンテスはゴシックホラーっぽいものが得意な人だ。というわけで「アウラ」『遠い家族』が良かった人におすすめ。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
スペイン - 小説/物語
- 感想投稿日 : 2012年11月12日
- 読了日 : 2012年11月11日
- 本棚登録日 : 2012年11月12日
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