移行期的混乱: 経済成長神話の終わり (ちくま文庫 ひ 22-1)

著者 :
  • 筑摩書房 (2013年1月10日発売)
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・2006年を境に日本の総人口が減り始めた。注目すべきは、これが有史以来、日本が初めて経験する長期的な人口減少だということである。これまで増え続けてきた人口が、ある時点から一転して減り続ける。このことは一体何を意味しているのか。

・エマニュエル・トッドの説によれば、民主化の進展と、それに伴う女性の識字率向上と社会的地位向上によって、いかなる国であろうとほぼ例外なく必然的に人口増大にブレーキがかかるという。この仮説が真であるとすると、出生率低下の原因を経済的な理由に求めるのは単なる俗説にすぎないこととなる。したがって、現在行われている少子化対策なるものは、その原因を履き違えているだけに有効な対策となりえていない。

・そもそも、民主化の進展は歴史的に不可逆な流れである以上、その帰結としての少子化というものに対して、有効な施策を打ち出すことなどできないだろう。したがってまた、少なくとも当面の間は、人口減少に歯止めをかけることもできないだろう。

・経済は生産と消費の拡大によって成長していくのだから、人口減少社会においては生産の担い手も消費の主体も減っていくわけで、とりわけ十分に経済が成長しきった日本社会においてはさらなる伸びしろはほとんど残っておらず、必然的に経済は縮小していかざるを得ない。「成長の限界」はどうやらあるらしい。

・「問題なのは、成長戦略がないことではない。成長しなくてもやっていけるための戦略がないことが問題なのだ」(p167)

*読んでいて面白いと思ったはずなのに、要約するといささか陳腐になってしまうのはなぜだろう。国内における実体経済の成長がこれ以上難しいというのは、(意識的か無意識的かはともかく)既にかなりの程度共有されている認識だと思うのだが…。

*しかし、日本中がアベノミクスに狂乱している今だからこそ、こういう本を読んで頭を冷やすことが必要なのかもしれない。

*面白いと思ったのはむしろ細部の記述。構造主義を経済分析に当てはめると、こういう見方ができるのかと参考になった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 時事評論・エッセイ
感想投稿日 : 2013年4月10日
読了日 : 2013年3月26日
本棚登録日 : 2013年3月26日

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