戦争中に使われていた戦闘のための船や飛行機、武器に詳しいわけではない。
けれど、まったく知識のない者にとってもとても読みやすい物語になっていた。
潜水艦という特殊な船艇における戦術、息が詰まるような臨場感。
そして、救助中の敵は攻撃しないという人間性。
すでに生きて戻ることは叶わない有沢との最後の交信は胸に迫る。
必ず気付いてくれると信じ、最後の力を振り絞って敵の情報を残そうとした有沢。
限界の中でもけっして諦めることなく、友の最後の言葉を信じ作戦を練る倉本。
戦争が悪いことだというのはみんな知っている。
武力に頼った解決など、何の意味もないこともわかっている。
たとえそこに信じるべき正義があったとしても。
立ち位置によって正義は変わる。
自分にとっての正義は、相手にとっては理不尽な不条理かもしれないのだ。
でも、実際に戦いに臨み、命のやり取りをするのは紛れもなく生きた人間たち。
ひとりひとりに家族がいる。愛する人もいる。守りたい人もいる。
戦いの中に人間性など求めてどうすると言われるかもしれない。
それでも、どんな極限状態にあろうとも、けっして揺るがない人間性。
それこそが尊いと感じる。
「もう敵を殺す理由はない・・・自分で自分を殺す理由もだ」
倉本の言葉は、戦争でなければ殺し合いなどしなくてすんだ、どこにでもいる普通の人たちが戦場に駆り出された現実を教えてくれる。
ずっと、未来永劫、戦争などなければいい。
世界のどの場所でも、戦争が悲惨なことに変わらないと思うから。
設定や当時の海軍の状況、潜水艦の描写など、詳しい人にとっては「あり得ない!」と言いたくなるような箇所もあるだろう。
撃沈できる機会をわざわざ潰すような指揮官などいない、と言う人もいるだろう。
それはそうかもしれない。リアル感がないと言われればそうなのだろう。
でも、この物語から伝わってくるのは、みんな真剣に生きていた時代だったということ。
必死に戦って、必死に生きようとしていたということ。
彼らの戦いの延長にいまの平和があるのだということ。
忘れてはいけないことだと思う。
- 感想投稿日 : 2017年3月9日
- 読了日 : 2017年3月9日
- 本棚登録日 : 2017年3月9日
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