警官の血 上 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2009年12月24日発売)
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上下巻読んでの感想
安城清二、民雄、和也。三代に渡り警察官として生きた男たちの物語である。
終戦直後に警察官採用試験を受けた清二は、警察練習所で同期だった三人と共に警察官になる。
それぞれに将来に向けた希望はあったけれど、清二の希望は駐在所勤務だった。
やがて希望通りに天王寺駐在所に配属された清二だったが、ある日突然に謎の死を遂げる。
万引常習犯の少年と父親との場面が印象に残っている。
警察官でもあり父でもある清二。
民雄にとっても印象に残る出来事だったのだろう。
父として警察官として清二を尊敬していた民雄だからこそ、突然の清二の死が納得できなかったのだ。
いつか事実を突き止めたい。
それは自然な思いだったように思う。
公安というと後ろ暗いイメージが付きまとう。
組織だった左翼運動は次第に暴力化し、民雄が任官した頃は公安の果たす役割もいまよりは大きかったのかもしれない。
仕事なのだから。そう納得はしていても、神経が擦り減っていくのはどうにも出来なかったのだろう。
学生運動では多くの犠牲者が出たという。
命を失った者も、その後の人生が変わってしまった者もいた。
民雄もまた、その多くの犠牲者のひとりなんだと思う。
PTSDなんて子どもだった和也にわかるはずもない。
警察官なのに、家では母親に暴力をふるう父親。
父親への反発もあったのだろう。成長し同じ警察官になって、あらためて父親が理解できた部分もあっただろう。
父親としてはけっして立派な父親ではなかったけれど、警察官としては誇れるような父親だったと和也は思っていたはずだ。
事実を突きつけられたときの和也の対応が、三代にわたる警察官の血を感じさせた。
したたかであるけれど、間違ったことはしていない。
父である民雄ほど弱くもなく、祖父である清二ほど純粋でもない。
利用できるものは利用し、したたかに組織の中で生きていく。
それが和也の選んだ道なんだろう。
読んでいて長さをまったく感じなかった。
それぞれの時代を感じさせるように、物語の中に流れている当時の空気感がいい。
重厚さも、構成の巧みさも、人間描写も、細かな設定も。
すべてが面白く、すべてを楽しむことができた。
犯人は途中で「この人怪しい」と思った人物だった。
やっぱり・・・とは思ったけれど、ガッカリはしなかった。
犯人当ての物語ではないし、そこにはあまり重要性は感じずに読んでいたからかも。
読みごたえは十分!!

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 警察小説
感想投稿日 : 2017年3月2日
読了日 : 2017年3月2日
本棚登録日 : 2017年3月2日

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