そこへ届くのは僕たちの声

著者 :
  • 新潮社 (2004年11月25日発売)
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本棚登録 : 370
感想 : 90
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ある日突然、耳元に誰かの声が響く。
それは自分にしか聞こえない声で、でも確かに存在する声。
大人たちに知られることなく、「声」を聞ける子どもたちはひそかに結びついていく。
自分たちの力で助けられる人たちに手を差し延べるために。

前半と後半では物語の持つ空気がまったく違う。
「声」は聞けるもののそれが何なのかわからないまま、毎日を平凡に過ごしている少女。
不幸な出来事で母親は亡くなり、父親は植物状態に陥る。
奇跡的に少女は無事に救出され、親戚の家で暮らすことになる。
そこでの新たな出会いが、少女を穏やかな生活へとゆっくりと戻してくれた。
連続誘拐事件と植物状態の患者家族への伝言。
不思議な出来事が結びついたとき、予想もしなかった事件が起きる。
犯行声明が届き電車に爆弾が仕掛けられたことがわかる。
同時に、「声」を聞くことが出来る子どもたちも何らかの異変が起きたことを感じとっていた。
消えた電車・・・車内に残されたままの犯人と乗客たち・・・そして爆弾。
息詰まるような救出劇は読み進めば進むほど胸が痛い。
決断しているのは子どもたちなのだ。
未来がある、本来ならばまだ守られるべき場所にいるはずの子どもたちなのだから。
「ハヤブサ」が最後にした決断は、たぶん正しかったのだろう。
あの場合、最善の策を取ったのだと思う。
でも、だからこそ、とても哀しく切ない。
荒唐無稽な物語の中に流れているリアルな人間の感情が、ストレートに伝わってくる。
子どもだけが持っている純粋な何かが、もしかしたら「声」のエネルギーなのかもしれない。
何かに導かれるように「ハヤブサ」の元に関係する人々が集まってきたことも、きっと何か理由があったのだと思う。
切なくて哀しい。
けれど、爽やかで未来への希望が持てる。
明日も頑張ろうと、そんな気持ちにさせてくれる物語だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ファンタジー
感想投稿日 : 2017年4月3日
読了日 : 2017年4月3日
本棚登録日 : 2017年4月3日

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