光源 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋 (2003年10月11日発売)
2.99
  • (12)
  • (40)
  • (155)
  • (42)
  • (12)
本棚登録 : 628
感想 : 84
3

誰もが当人にしかわからない事情を抱えている。
そして、誰もが自分にしか通用しない正義を信じている。
物語に登場する人物は、何があっても最終的に悪いのは他人だと思っている。
自分にも悪いところはあっただろう、でも、それ以上に悪いのは他の人間だと・・・。
吐き気がするほどの身勝手さが、服を着て話し、偉そうに自分の正義を押し通す。
映画に魅入られ、映画・・・映像と関わることを職業として選んだ人々。
でも、本当に好きなのは映画ではなく、自分自身。
名声や人気が何よりも大切で、欲しいものだのだ。
実力以上に自分を評価し、周囲が認めてくれないと腹を立てる。
監督としての実績もなく、力量も未知数なのに、我を押し通そうとする三蔵。
映画製作は道楽ではない。
それなりに経費もかかれば、大勢の人たちがかかわる力の結晶のようなものだ。
だが、三蔵にはそれがわからない。
考えようともしない。
ただ、その場での自分のプライドを保つことだけに振り回される。
高見は、自分の限界を知っているがゆえに才能の片鱗を見つけると潰しにかかる。
「俺以上に目立つな」と。
もっとも好きになれなかったキャラクターは高見だった。
破滅への一歩を踏み出した高見だが、何となく先は見えているような気がする。
実際にずっと傍にいるようになったら、一緒にいることが日常になったら、きっと高見はエリを捨てて日本に戻り俳優を続けようとするに違いない。

映画とはいったい誰のものだろう?
監督のものか?
それとも俳優のものか?
脚本家のものなのか?
有村は映画は監督のものだ・・・という。
けれど、最終的には資金を調達したプロデューサーのものだ、ともいう。
何かを作り上げる現場には、きっといろいろな人間ドラマがあるのだろう。
舞台裏を見ているようで、どことなく落ち着かない気持ちになった物語だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 一般小説
感想投稿日 : 2017年3月15日
読了日 : 2017年3月15日
本棚登録日 : 2017年3月15日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする