ダヤンとジタン

著者 :
  • ほるぷ出版 (2000年12月1日発売)
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本棚登録 : 196
感想 : 25
5

本書は、ダヤンの長編ファンタジー第2弾です。

表紙のこちらを向いている金の瞳のダヤンと
ミステリアスな横顔を見せているジタンは、
毛並みのひとつひとつが細やかに
手触りが感じられるほどにていねいに描かれています。

本シリーズの挿絵はすべて著者によるエッチングなのですが、
本当に生きているような絵なのです。

長編ファンタジー第1弾『ダヤン、わちふぃーるどへ』は、
まだどことなく、ダヤンも話し始めたばかり、
作者も書き始めたばかりのような雰囲気が若干あって、
ここはあっさり行かずに
もう少し書き込んでもよいのではないかなぁというシーンがありました。

本書は、少しこなれてきた感があり、
世界観とストーリーに深さと幅ができてきたような感じです。

書かれていない部分は本当に決まっていないのではなく、
すでにあるけれども書かれていないだけのような。

今回は、主人公のダヤンにとって、
また、他の登場人物のすべてにとって「特別な存在」であるジタンにスポットが当たります。

ジタンは、登場した当初から不思議な猫でした。

ずっと前からいるようなのに少しも年をとらない。

みんなはジタンのことを不思議だと思っていますが、
誰も深いところまでは詮索しないのです。

ジタンは、ときどき、誰にも何にも告げず、ふらっと旅に出ることがあります。

北の方に行ったようだけれども、誰も正確な行き先は知らないのです。

みんなは、ジタンがそのうち帰ってくるとわかっているので、
特に探しにいったりはしません。

ところが、ダヤンは違いました。

リーマちゃんから来た手紙がアルスの言葉で書かれていて、
自分は読めないけれど、ジタンだったら読めると思ったというのもあります。

でも、探しにいった理由はそれだけではありません。

ダヤンは、ジタンを探しに旅に出ることを決めたときに、
ウィザーローク(ダヤンが拾って、顔を描いて、名前をつけた枯れ木。ダヤンが門番という仕事を与えた。)に
こんなことを語っています。

「ねえ僕はやっぱりジタンを追いかけて行こうと思うんだ。

誰もジタンの謎を知ろうとしないけど僕は知りたいよ。

僕にとってジタンは特別だけど、

ジタンにとっても僕が特別になりたい。

それにあの手紙も早く読まなくっちゃいけない気がするんだ。

一緒に北へ行ってくれないかい?」

手紙よりも、ジタンを知りたいが、旅の動機だったのです。

ロークも答えます。

「私にとって、ダヤンあなたは特別です。

あなたが北へ行きたいのなら、私も北へ行きましょう」。

「特別な存在」という言葉で繋がれているのは、
ダヤンとジタン、ダヤンとロークだけではありません。

リーマちゃんの手紙は、リーマちゃんからダヤンへの手紙だっただけでなく、
リーマちゃんのひいひいおばあちゃんであるベルからジタンへの手紙も含まれていました。

ベルは、リーマちゃんに対しては、わちふぃーるどを語る語り手です。

リーマちゃんからみてひいひいおばあちゃんは特別な人なのです。

同時に、ベルは、かつて大魔女としてわちふぃーるどにいたことがあるという意味で、
わちふぃーるどとアルスをつなぐ存在です。

わちふぃーるどがアルスから切り離された経緯を知っており、
そのときからジタンを知っています。

ベルのメッセージを読んだときのジタンの反応から、
ベルはジタンにとっても特別な人であることがわかります。

この手紙は、わちふぃーるどとアスルをつなぎ、
それぞれ別々に起こっていたはずの出来事を一気に解決に結びつけるものにもなるのです。

ダヤンの旅の途中で起こった象徴的な出来事は、
途中で起こってしまった不測の事態でした。

それは、ダヤンとロークにとって重大な失態なのですが、
彼らはそのときすぐにはそのことには気づきません。

ですが、長い目で考えるとそれは、
そのときに起こっておく必要があったことでした。

その出来事があったからこそ、
ダヤンとロークとジタンは再会できたのだと言ってもいいでしょう。

普段、私達にもそんな出来事があります。

起きてしまったときは、もう最悪だとしか思えません。

どうしてあんなことをしてしまったんだろうと激しく後悔することさえあるでしょう。

ですが、ファンタジーを読んでいると、
自分のリアルとはもともとかけ離れていますから、
ちょっと離れた目で主人公を取り巻く世界を見ることができるので、
起こるべくして起こったことが
どうつながって解決されるかを余裕を持ってみることができます。

結構、ファンタジーで鍛えたものの見方は実生活でも使えますね。

それから、ファンタジーの醍醐味は、
様々な種の者たちが、適材適所で大活躍をすることです。

本書でも、気持ちよいくらい、
「だれもかれもが体の大きさや特性に合った役割を受けもって忙しく働いて」います。

悪役さえも、必要な存在なのですね。

この見方も、日頃の人間関係に応用可能ですよ。

主人公のダヤンも、少しずつ少しずつ成長している様子がわかります。

最初は、天然の魅力と可能性をもった存在ですが、
本書では、意思を持って、周りがしない行動を率先して取っていき、
そのことにより、周りの者たちからおもしろいやつだ、変わったやつだと
一目を置かれるようになってきます。

これは、諸刃の剣で、無謀な行動にもつながってしまう個性でもあります。

待っていればジタンに会えたのに、探しに行ってしまったばかりに、
魔王の城に囚われてしまうのですから。

ですが、先ほどちょっと触れた「失態」が逆にダヤンとロークを救うことになりました。

そして、意思を持って行動を選択し、勇気を持って進んだおかげで、
ダヤンはある重要な情報を手にして
魔王の城から逃げてくることができたのでした。

仕上げとして、今回の重要な役割を果たすことになったのはいうまでもありません。

解決策を練ったのは、ジタンですが、
それは、ダヤンがいなければ、完成されなかったことなのです。

そして、決行の前にふるえてしまったダヤンを励ます
ジタンの言葉のなんと温かいことでしょう。

ジタンにとってもダヤンが特別な存在であることは、
ジタンの言葉とある行動によって示されます。

本書は、ダヤンとジタンがお互いが特別な存在である
ということを全ストーリーをかけて表現しました。

あなたにとっての特別な存在とはどんな人でしょう。

ダヤンのように言葉にしてみると、
自分のことも相手のこともわかるかもしれません。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 児童書
感想投稿日 : 2010年1月4日
読了日 : 2010年1月4日
本棚登録日 : 2010年1月4日

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