レビュー by bookymarikaさん
共感する部分があった本。
実はホラーなのかもしれない。
というか、恋そのものが狂気を帯びた恐ろしいものなのかもしれない。
イントロダクションでは井口という男が主人公だった。彼の誕生日の日の話で、昔別れた彼女が執拗に彼にコンタクトを取ろうとしている事に関して彼が悩んでいる。
彼女が会社に電話をしてきた時、対応したのは同僚の水無月さん(おばさん)。
夜に社長にご飯を誘われたその横には水無月さんが。社長がどこかに行った後、水無月さんが離婚をした時の話をしだし、そこから彼女の恋の話(というか彼女の恋の話自体が彼女の人生の話)が展開されて行く。そこから完全に水無月さんが主人公。彼女のlifeにのめりこまれていき、最後にまた井口と話しているシーンに戻る。その回想終了が実にスッとしている。(「実にスッとしている」ってなんやねんw)でも本当に、自然な感じなのだ。
でも、introductionとendingには決定的な違いがある。introductionはもちろん井口の視点でendingは水無月の視点であるという違いはもちろんだが、endingでは、水無月の価値観フィルターで見ている事。endingを読んでいる時に違和感を感じたのは、このせいだった。
endingで
「ううん…陳腐な話をしちゃって」ごめんなさい、て感じの水無月さんに対して、井口が
「陳腐じゃない恋愛なんてないですよ」って言ったのが印象的。
背表紙の文句も好き。
「もう神様にお願いするのはやめよう。
―どうか、どうか、私。
これから先の人生、他人を愛しすぎないように。
他人を愛すぐらいなら、自分を愛するように。
哀しい祈りを貫きとおそうとする水無月。彼女の家宅閉ざされた心に小説家創路(いつじ)は強引に踏み込んできた。
人を愛することがなければこれほど苦しむ事もなかったのに。
世界の一部にすぎないはずの鯉が私のすべてをしばりつけるのはどうしてなんだろう。」
山本文緒先生の何がいいって、登場人物の人間模様をよく描写している事。描写はしてないかもしれないけど(いや、してるのかな?いかんせん読書量が少ないから比較ができぬ。笑)、たくさん出てくる人物の様子がよく書けている。少なくとも、読み手がありありと想像できるぐらい。水無月美雨から始まり、創路功次郎、萩原(水無月が働いてる会社の社長。大学時代の友達であり、初めて水無月を抱いた人)、陽子ちゃん(創路の羊ちゃんの1人。背が高くてモデルっぽい)、千花(芸能人になりたい中学生。羊)、美代子(羊。週刊誌に「愛人」として載ったとされる)、藤谷(水無月の元旦那)、のばら(創路の奥さま)、奈々(創路の娘)などなど・・・これだけの人が出てくるのに、みんなの表面からドロドロまでよく見える。だから人間くさい。この本は人間くさい小説なんだなって感じ。
本の前半部分だけを読むと、普通の恋愛小説。(もちろんその展開の仕方とかはすごいけど!)
でも、読むにつれて、「信じられない。なんでこの水無月はうじうじうじうじしてるんだろう。あーもう!いらいらする!」とまで思っていた。
しかしよくよく読むと、なんとまぁ自分に似てるじゃないか!
しかも状況までが。笑
何故彼にばかり頼ってしまうのか。頼る、というのは精神的な面で。水無月は、創路を甲斐甲斐しく世話をし、創路は彼の生活の1から10まで水無月に頼っていた。でも心の面では水無月の方がずっと創路を頼っていた。そこが恋愛を失敗する所か、ってすごく納得した。笑 水無月はすごく不器用。だから恋愛がうまくいっていない。そう思ってたけど、私も恋愛に関しては不器用なのかなー。そんなこたぁねぇ。笑 でも、彼一本に絞るのはまずかったと思う。創路は仕事と奥さんとたくさんの羊ちゃん達を可愛がっていた。千夏も芸能人になる、という強い志を持っていた。想路先生を愛すだけじゃなかった。陽子も先生だけでなく、他にちゃんと愛する人がいた。そうやってみんな心のバランスを保っていた。しかし水無月だけは先生がすべてだった。よって、先生を失う事で心のバランスが崩れて自分を失った。よーするに重すぎるとだめなんだな。
自分が水無月に共感したのは、自分も人を愛しすぎてしまうからだ。それは彼とかに限った事でなく、家族や友人(男女を含め)も。失うのが怖い。怖いから一本に絞ろうとしない。
水無月には共感はするが、私は水無月と違う!って確信しよう。笑 少なくとも、私は彼女ほど彼に従わない。彼一本じゃない。だからがんばろう。
こんなところでうじうじしてられるか!って自分にカツが入るような作品でした。恋愛についていろいろ考えさせられた。読んでよかった。
レビュー登録日 : 2008年07月20日
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