現時点で2009ベスト。父親の不在、ある意味母親の不在、児童期の性的虐待、偽りの記憶、と扱っているモチーフは相変わらず重い。暴力性と不穏な死の気配が常時底辺に流れているところも過去作と同じ。登場人物が全員破綻しているところも。でも過去作で感じた「破綻の悲しみを読むやりきれない辛さ」は、今回は全く感じない。
シンプルで明晰な短文の積み重ねで、色彩をあまり感じさせずに猛スピードで話が進む。あまりにもするする読めることに逆にとまどいつつ、下巻に入ってから、薄々感づいていたことも含めようやく全てのつじつまが合う。それから、もう一度最初に戻って読み返したくなる。仕掛けを知らずに読んでいるうちから、ストーリーに色彩の有無を感じてしまう。ものすごい筆才だと思う。第5部の途中から話が急展開し、早く先を読みたいのに話が終わってしまうのがもったいない、という幸せな気持ちを久々に味わった。
写真ボードに見入るシーンと最終章は感動的。現実の愛情と、「愛されている」という実感とを得ることができて本当によかった。
小ネタで映画、俳優の実名が登場するところも楽しい。
「本物のジャックバーンズは薄幸に見えるからあなたはにせもの」
「先生、今あなたが僕を鬱病にしそうです」
追加:
タイトル「また会う日まで」はUntil I Find You だけれど、読み終えて思うのは、また会うのではなくやはりこれは「出会うときまで」だろう。ヘザーとウイリアムに出会えるときまで、本当の母の姿と自分の過去を見つけるまで、自分自身を見いだすまで。
- 感想投稿日 : 2009年10月28日
- 本棚登録日 : 2009年10月26日
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