蜜蜂と遠雷

著者 :
  • 幻冬舎 (2016年9月23日発売)
4.35
  • (2881)
  • (1820)
  • (640)
  • (116)
  • (31)
本棚登録 : 20408
感想 : 2162
5

文句なしの傑作です。文字と文字の間からピアノの旋律が聞こえてくる。こんなに読んでてハラハラドキドキする音楽小説にはそうそう出会えません。

国際ピアノコンクールを舞台に出場した4人の若者の成長と葛藤を描く青春小説。
「夜のピクニック」でお馴染みの恩田陸の第156回直木賞及び2017年本屋大賞ダブル受賞作品です。

3年ぶりに開催された第6回芳ケ江国際ピアノコンクールに出場する「元」天才ピアニスト栄伝亜夜(えいでんあや)。
母の死のために7年前に突然舞台を去った彼女は葛藤とともにコンテストに臨む。
一方、同大会には世界的巨匠の秘蔵っ子とも言える少年・風間塵(かざまじん)が何の前評判もなく登場、音楽会の常識を一顧だにしない悪魔的な演奏に、審査委員たちは戦慄する。
亜夜の幼馴染の若手スター・マサル・カルロス、そしてごく平凡な会社員でありながら音楽会に「再」挑戦する高島明石。
彼ら彼女らがコンテストを通じて掴むものは、一体なんなのか。

「のだめカンタービレ」を思わせる音楽に青春をかける若者たちのストーリーです。
一番の主人公は「元」天才ピアニスト英伝亜夜。
恩田さんは青春真っ只中の女の子を描写するのが本当にうまい。
いっけん天然に見えながら、実は大きな心の傷を抱え、音楽を前に葛藤し、そしてそれを乗り越え成長していく彼女を実に清々しく表現されている。

しかし、大人の読者にとって、最も共感できるのが、28歳会社員、妻子持ちの超平凡ピアニスト高島明石の存在です。
亜夜をはじめ数々の天才少年少女たちに混じって、年齢的にもギリギリ、日々の生活でいっぱいいっぱいで普通の青年である明石の挑戦する姿に、世の大人たちはついつい自己投影してしまいます。

彼をここまで応援したくなるのが、多くの社会人が抱えているジレンマを代弁しているからです。
かつて進んでいた音楽家の道を、特に大きな挫折をするわけでもなく、卒業と当時にごく自然にドロップアウトして、普通の人生を歩んでいる明石。
主に音大生の他のコンテスタントたちがごく自然に音楽漬けの生活を送れるのに対し、社会人たる明石は仕事と生活とに追われ、十分な練習時間を確保できない。
そしてそれ以上に、家族・友人・同僚と行った多くの周囲に対しての責任を負っている。
それを諦めずに、再挑戦を図る彼の姿に、青春から遠く離れた大半の社会人読者の胸を打たれること間違いなしです。

読み逃したら損します。
音楽が好きな方も、馴染みがない方も関係なく、普通に一生懸命に生活している大人たちにぜひ読んでほしい一冊です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2017年5月8日
読了日 : 2017年5月8日
本棚登録日 : 2017年5月8日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする