子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から

  • みすず書房 (2017年4月17日発売)
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託児所や学校は社会の縮図である。日本でイジメが問題になっているのは、自分とは違う立場、容姿、弱い生命力(障害など)などを持った他人を思いやることができないからだと思うが、その原因を作っているのは明らかに大人たちである。社会の排他主義的な思想はそのまま子どもたちに受け継がれてしまう。著者はインクルージョン教育について述べているが、著者の勤務していた「底辺」託児所には、様々な人種、障害のもった子供などがたくさんいて、よいインクルージョン教育の場になっているようだ。ただ、親たちの思想まで変えられているわけではないので、卒業後はどうなるのかと危惧する。

この本では、託児所内の人間模様が非常に面白く描かれていて飽きずに読み終えられたが、その大きな理由が、著者の深い洞察力と卓越した文章力だと感じる。以下の文章は特にそれを実感する。

「決断力。クリエイティヴィティ。ディベートする力。私が日本にいた20年前から現在まで日本人に欠けていると一般に言われている事柄はちっとも変わっていないように思えるのだが、こうした能力が欠如していることが本当に民族的特徴になっているとすれば、それは人間の脳が最も成長する年齢における環境や他者とのコミュニケーションのあり方に端を発していないだろうか。少なくとも英国の幼児教育システムは、言われたことを上手にやる天使の大量製造を目的にはしていない。」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2017年8月6日
読了日 : 2017年8月6日
本棚登録日 : 2017年8月6日

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