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レビュー by cerisaieさん
牢で同房になった二人の男の会話がほとんどすべてを占める小説。
男の一人は政治犯のバレンティン、もう一人は未成年者を誘惑した罪で服役中のモリーナ。モリーナは、ホモセクシャルと書かれているけれど、今でいう性同一性障害というか、自己のアイデンティティは完全に女性、という人物。
モリーナは古き良き昔を愛する保守的な中年の庶民で、理性より感性を大事にするタイプ。かたやバレンティンはブルジョア出身のインテリ革命家であり、若き理論家。全く相いれなそうな二人だけれど、人懐っこく世話好きのモリーナと、根は甘えん坊のボンボンであるバレンティンの間には、だんだんと情が育まれていく。
とはいえ結局二人ともそれぞれの価値観を貫くし、裏の事情や思惑やどんでん返しがあったりして、一筋縄ではいかないのだけれど、それでも他に頼る人もない二人の、理解しあいたい、分かち合いたい、気持には切実なものがあり、胸を打つ。
人間は一人では生きていけないし、目の前にいる人を、分かりたい、分かってほしい、抱きしめたい、抱きしめてほしい、と思うものなのかもしれない。たとえ全く相手と生き方が違っても。
そして忘れられないのが、モリーナが語る映画の数々。映画の内容が、二人の思いや運命を暗示しているだけでなく、男らしさを重んじるラテンの社会で、おそらくは「オカマ」として常にさげすまれてきたモリーナの、唯一のよりどころであり逃げ場であったのが、克明に記憶されたこれらの映画だったのであろうことが、おそらくもとになった映画の魅力を超えて、彼女の語りに輝きを与えている。
多少留保をつけるとすれば、作者の分身なのかも知れないモリーナの圧倒的な存在感に比べて、バレンティンは若干都合のいいキャラクターになっている気もした。
若き革命家って、もっと独善的で聞く耳持たない人種じゃないかという気もするけれど。
このころの革命は家や恋愛に関する既存の価値観をも壊すものだったのかもしれない。
レビュー登録日 : 2010年03月19日
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