時々見ている、外国文学を紹介するサイトで「おすすめ」だったので読んでみました。
作者はパレスチナに生まれ、イスラエルの建国後も国内に留まって「アラブ系イスラエル人」として生きた方なのだそうです。
そう書くとすごく難しそうだと思われそうだし、実際テーマは重いのだけど、普通に小説として楽しく(って語弊があるかもしれないけど)読めました。
著者と同じアラブ系イスラエル人であるサイードの一人称の語りが、何だか飄々としているというかずっこけているというか、「あーっ、もう、サイード、バカだねえ」とか心の中で突っ込んでいる間に、あっという間に読了。
著者は、イスラエル政府に抵抗して、パレスチナ人の権利を求め続けた知的リーダーでもあって、当時そういう人たちはみんな共産党に属していたらしいんだけど、主人公サイードは、こともあろうにユダヤ人の手先としてその共産党の活動を取り締まる、いわば民族の敵。密告もしてるみたい。
でも、それは生きる方便で、彼なりにアラブ人の誇りや憤りを語ったりもして、憎めない。
イスラエル建国に当たってパレスチナ人が「追い出された」ことはなんとなく知っていましたが、作中に出てくるパレスチナ人たちのなめる辛酸は軽く想像を越えていました。でも、だからこそ、そこに立ち向かうには「笑い」だ、というのが、アラブ文学の伝統であり著者の持ち味なのだそうで、決して重くって難しくって読みづらい小説ではありません。
読み終わる頃には、イスラエルと中東の抱える問題について、やっぱり考えさせられてしまうのですけれど。
訳者の方はこの作品にもともと思いいれがあったらしく、膨大な訳注も親切で読みやすいし、訳文に軽快なリズムがあって、翻訳調と戦う苦しさみたいなものは皆無でした。背景知識がそれほどなくても、注が親切なので意外と大丈夫。引用や比ゆや言葉遊びに満ちているので、読み返すたびに新たな発見がありそう。
普通におもしろく読んで、読むうちにパレスチナに対する理解も深まる作品。
- 感想投稿日 : 2010年7月4日
- 読了日 : 2010年7月4日
- 本棚登録日 : 2007年2月6日
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