「ドーキー古文書」が読みたくて探して買った「世界文学全集」の中の1冊。
「第三の警官」で紹介されるマッドサイエンティストのド・セルヴィ博士が生身で登場!
しかも、空気中の酸素をすべて失わせるD.M.P.なる物質で「全世界破壊」を試みる。
ちなみに、その物質の副作用として、時を支配することができ、先週仕込んだウイスキーが何十年ものヴィンテージな味わいになり、過去の聖人(アウグスティヌス)と話をすることができる・・・ってなんだ?
で、主人公のミックは、ド・セルヴィ氏の全世界破壊計画を阻止すべく警察に相談に行くが、警官は、自転車に乗りすぎると、自転車人間になってしまうことを憂慮するばかり・・・。
死んだはずのジョイスは、バーテンダーをやっていて、「『ユリシーズ』は俺が書いたんじゃない」と不満を垂れる。そこで(??)ミックは、ジョイスとド・セルヴィ氏を引き合わそうと企む。
さて、いったい、物語はどうなるのか、とハラハラドキドキせず、ダラダラとした酒場のお喋りのようにぐだぐだぐだぐだ…。最後、ミックが恋人から告げられた驚愕の事実とは!!! というほどもなく、馬鹿なことやってないで現実をみなさい、的な終わり方なのか??
アイルランド人のアイデンティティとかカソリックについてがわかりにく本質を読み切れているかよくわからないが、なんかじわじわとおもしろい。
序文には、「これはただの冗談にすぎない」とあるのでそういうことなのね。
で、もうひとつ収録なのが「マンデルバウム・ゲイト」。
1961年、ヨルダンで発掘作業を行う恋人を追ってエルサレムにやってきた半分ユダヤ人でカソリックに改宗した女性教師バーバラ、母親と彼女の元使用人からの愚痴の手紙に丁寧に返事を書く英国領事館の職員、自分の利益のために二重スパイをするアラブ人実業家、自由奔放なその娘、主人公を追ってイギリスからやってくる校長先生(レズビアン?)と・・・登場人物の誰もが濃い。
中でも面白かったのが、17歳のときに関係をもった27歳の英国人女性から、「自分を笑う目」を学んだうアラブ人の青年アブダル。その目により、すべてに猜疑心を持ち、敵を憎むことのできなくなった彼は、どの運動、思想にも冷笑的で、あらゆるアラブの愛国運動に参加すると同時に、カソリックの洗礼証明書さえも手に入のれる。アブダルもバーバラと同じくどっちつかずのアイデンテティを持つ人物である。
宗教問題かと思えば、スパイ小説のような様相を示し、サスペンスかと思いきやアイデンティティをめぐる物語・・・といくつものテーマがころころと変わる。物語の転がし方も独特で、この結末はどうなるのか、と読み進めると、いきなりあっさりと結果を書いたり、数年先を描いたりするので拍子抜け。時間軸にすすむ物語の否定??
1961年のイスラエルといえば・・・、そうアイヒマン裁判の真っただ中。バーバラの従兄の弁護士がアイヒマン裁判のためにイスラエルにやってきて、彼女も傍聴に行く。彼女は、裁判について「ゴドーを待ちながら」を引用しつつ、不条理映画あるいは、アンチロマンの小説のようだ、とし「これはまさに宗教裁判だ」と述べる。
アーレントが裁判を茶番だと言い切ったのと同じように。
マンデルバウム門でエルサレムにあるイスラエル領とヨルダン領に区切られたひとつの都市、いきなり降ってわいたように成立したイスラエルという国、アイヒマン裁判が行われる一方で、「アラビアのロレンス」の撮影が行われる状況、すべてが不条理劇のようである。
「第三の警官」を読みたいけど高くて手がでないから、ここっちでいいや、と買って読み始めると、「第三の警官」が再発され、「第三の警官」を本屋で買うときに、ふと目に着いたのが「バン、バン! はい死んだ」の作者が「マンデルバウム・ゲイト」のスパークだったり、ほぼ時を同じくして「エルサレムのアイヒマン」(アーレント)を読んでいたり、読み終わって誘われて観に行った芝居が、エルサレムを目指す少年十字軍(皆川未博子原作)と、なんだか不思議な偶然が続く読書体験、これこそ読書の快楽!
- 感想投稿日 : 2014年3月15日
- 読了日 : 2014年2月23日
- 本棚登録日 : 2013年11月9日
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