すかたん (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2014年5月15日発売)
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感想 : 106
5

「その野菜の適切な時期に植えたら
どんな野菜も心配しなくても
ちゃんと出来ますから ♪」
とお百姓さんに教わり
旬を見逃さないよう昨日は自分の畑に夏野菜を植えてきた。

なにわ伝統野菜の勝間南瓜、昨冬は天王寺かぶや田辺大根を収穫、なにわ伝統野菜をつくりながらの畑仕事が楽しい時に、朝井まかてさんの 自分にはまさに旬の小説に出会った感。 

大阪出身の著者の植物好きが小説の中に随所に取り入れていて 植物、野菜、野草の名前がいっぱい出てくるところがすごい。 春日野若菜、鶯菜、嫁菜、芥子の若葉、 木津のかんぴょう、河内蓮根、海老名の冬瓜、勝間南瓜、毛馬胡瓜、鳥飼茄子、玉造の黒門越瓜、地元の天王寺かぶに、田辺大根 

また、八百八橋を背景にした江戸時代の大坂  夏の天神祭 四天王寺さん、木綿栽培、天満青物市場、八百八橋と言われるほど堀川が多く美しい水郷のまちだったこと など昔からの地の大阪の風物も大阪弁も変わらない姿が描かれていて この時代劇小説を読んでいる間は地元大阪の昔に自分もタイムスリップしたみたいになじんで読んでいた。

物語は江戸詰め藩士だった夫と大坂でくらしていた知里が 夫が急死してひとり身となり江戸と違う慣れない大坂の生活に四苦八苦することに。ひょんなことから青物問屋河内屋の若旦那・清太郎と出会い、河内屋の上女中奉公になり、しだいに大坂の旨いもんに目覚めていく。

河内屋の若旦那清太郎は青物のことを語らせたら右に出る者がいないくらい無類の青物狂いで熱い、が、遊び人でとんだすかたん ( 見当違いなこと、間の抜けたことをする人をののしっていう語。とんま。まぬけ。すこたん。「このすかたんめ」「すかたん野郎」とかいう) で いろんな問題を起こす。

昔から天満青物市場にも仲買人がいて野菜の直売ができずにいた。丹精して作った野菜を売り残さず 町の者と直に取引することで食べるものと作るものが思いを通わせるそんな商売がしたい 難波村のお百姓 富吉が禁止されている立ち売りをしていた、その許可を求めて清太郎が奔走していく。巻き込まれていく知里、すかたんだけどまっすぐに突き進む清太郎に次第に惹かれていく知里との恋物語が始まる。 

役人と商人の癒着がひどい大阪の青物渡世に青嵐 大川の水面を波立たせるほどに強い風 強引ではた迷惑、けど、真正面から新しい季節を開く風のように 大坂の青物市場を切り開いていく。なじみの芸子、小万が機転を利かし、知里とともに 悪徳商人の伊丹屋のお上への賄賂受け渡しを現場で取り押さえ市場を正常に戻し伊丹屋を成敗した場面は痛快で何とも気持ちが良かった。


代々、河内屋では若旦那のご寮人ごりょはんが河内屋の畑の世話をするのがしきたりでお家さんの志乃から 畑を任された知里は 幻のカブの種を植えた。志乃は畑を任した時から清太郎の嫁、河内屋のご寮人として受け入れていたのかもしれない。なんでもお見通しというところもさすがである。

河内屋を伊丹屋の陰謀から救ったのも あとに幻のかぶだった。知里が植えてできたのが新種の丸大根で 競りに立った清太郎によって想像以上の高値がつき 青物商いの玄人衆にその価値を認められた。

やがて清太郎と知里は最後はハッピーエンドとなるが
河内屋のしきたりどおり 鞘に収まったところが気持ちよい。 ラストシーンは競りで市場の慣いの三本締めで占めるところはさすがである。 


畑が初めての知里が畑仕事をひとつひとつ教わっていくところでは
 
間引きって? 

元気そうな芽ぇだけ残して他は引いてしまうんや。そのままほっといたら苗が混み合うて大根の根身が小そうなるさかいな。


この時季、大根はとうが立ちやすくて放っといたら花咲かせて種つけてしまう。全部をそのままにしたら花や種に栄養がとられて根身がやせてしまうんや。そやから、種とりたい株だけ残して他は蕩(とう)を手でちぎってしまわなあかんで  


ふだんの地元大阪弁で 畑でおじいやおばぁが教えてくれる姿とまったく同じくダブった。

今この時代劇小説に出会えたことは自分にとってまさに旬である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 時代劇小説
感想投稿日 : 2016年4月17日
読了日 : 2016年4月17日
本棚登録日 : 2016年3月26日

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