日本が戦争に突入する過程・その渦中を、当時のインテリ大学生がどう見て、どう生きたか。戦争に関する客観的な分析の本よりずっとおもしろい。
社会が「国民精神総動員」に向かっていたとき、著者は自分なりの世の中の流れへの解釈・批判を捨てなかった。むしろ、捨てられたらどんなに楽だろうと思いながら、捨てきれなかった。
信じきれないスローガンを掲げる軍国「日本」よりも、開戦の日に観た文楽の世界に現れる「日本」が、著者にとっての親しんだ故郷であった。
戦時中の東京を、生きていたのではなく、眺めていた。
つまりその場に生きながら、歴史の中の東京を見ていた、著者の証言はとても重いと思う。
社会の流れが、自分にとってどうすることもできないものでも、それについて知りたいと思う、理解したいと思う。
そのことについて、ベトナム戦争で死んだ子供のことを、気にしたところでどうすることもできないのに何のために気にするのだろうか、というエピソードにつなげている場面がある。
「『知ったところで、どうしようもないじゃないか』―たしかに、どうしようもない。しかし『だから知りたくない』という人間と、『それでも知っていたい』という人間があるだろう。前者がまちがっているという理くつは、私にはない。ただ私は私自身が後者に属すると感じるだけである」。
だからこの人は学者なんだなあと感じる。
とても謙虚で正確な言葉を使う。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
未設定
- 感想投稿日 : 2013年12月4日
- 読了日 : 2013年12月4日
- 本棚登録日 : 2013年12月4日
みんなの感想をみる