西洋絵画の歴史 1 ルネサンスの驚愕 (小学館101ビジュアル新書)

著者 :
  • 小学館 (2013年10月1日発売)
3.71
  • (4)
  • (3)
  • (6)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 115
感想 : 11
4

全頁カラーで解説に該当する箇所のアップの画像もあり、非常にわかりやすい。

現代人が遠い過去に描かれたものをみるとき、決定的に欠けている視点がある。たしかにカラー印刷の技術は、本物に違わぬかのような図版を大量に生産することを可能にし、現実には決して相見えることのないであろう作品たちが、わたしの手元にも揃う。美術館へ足を運べば、国も時代も問わず、ありとあらゆる美術品が並ぶ。そしてふと忘れる、パッチワークのようにかき集められたものたちは、いったいどこから切りとられてきたのかということを。
本書は、とくにルネサンス絵画に描かれていることを理解するとき、この忘れがちな視点の重要性を読者におしえてくれる。

本書に紹介されていたなかでとくに目をみはったのは、ジョヴァンニ・ベッリーニ《サン・ジョッペ祭壇画》の復元図である。今はアカデミア美術館に所蔵されたかの作品は、もとはサン・ジョッペ修道院付属聖堂の身廊に飾られていた。絵はそこで重厚な枠に覆われていたのだが、枠からとられた現在の姿と復元図とをみると、この祭壇画の本来の姿に驚く。本来の姿ならば、絵に描かれたものと現実の枠とが見事に連続しており、まるで飾られた壁の先に空間があるかのような錯覚を覚えるのだ。現在の姿であれば、描かれたマリアは描かれたものでしかない。しかし復元図のマリアは、画家の筆によって穿たれた空間に存在の重みを持って佇んでいる。画家の綿密な計算が、わたしにマリアの存在を感じさせるのである。
やはり野におけ蓮華草とはいったもので、本来あるべき場所から引き剥がしても、わたしたちはその美までも手にすることは叶わないのだろう。

本来の姿を知ることは、絵の意味を知ること、描いた人物を知ること、描かれた時代を知ることはもちろん、わたしと同じ場所に立ったであろう過去の人々の思いさえ想起させるようである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: art
感想投稿日 : 2016年11月1日
読了日 : 2016年12月3日
本棚登録日 : 2016年10月31日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする