王妃マルゴ [DVD]

監督 : パトリス・シェロー 
出演 : イザベル・アジャーニ  ジャン=ユーグ・アングラード  ヴァンサン・ペレーズ  ヴィルナ・リージ 
  • パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
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感想 : 5
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久しぶりに再視聴したのでレビューを。

日本列島が戦に燃えていた同じとき、遠く離れたフランス王国でも、神の御名のもとに血が流され続けていた。本能寺の変の10年前、舞台は1572年のフランス王国、首都パリでは前代未聞の婚礼が執り行われていた。新婦はマルグリット・ド・ヴァロワ、映画の主人公にして、世界史上でも有名な女性である。彼女は今も「淫婦マルゴ」と渾名されている。彼女が有名なのは、その渾名のとおり、豊富な男性遍歴による。兄弟たちとの近親相姦も噂されるが、真実はわからない。新郎はアンリ・ド・ナヴァール、のちのアンリ4世王である。マルゴはカトリック、アンリはプロテスタント、王国を二分する宗教内乱の最中、この婚儀は敵対勢力同士の融和のためになされた、非常に政治的かつ象徴的な出来事であった。映画の原作となる『王妃マルゴ』を著したデュマの描くとおり、マルゴとアンリの間に愛はなかっただろう。

この婚儀は、一般に「緋色の結婚」として日本でもよく知られている。なぜ「緋色」なのかといえば、このあと、王国では「聖バルテルミの虐殺」とのちに呼ばれる、プロテスタント殲滅事件が起きるからである。映画のなかでは、じつに生々しくこの非常に血生臭い狂乱の一部始終が描かれている。伝説によれば、それは1572年8月24日の夜更け、ロクセロワ教会の鐘の音とともにはじまる。どうしてこの虐殺が起きたのか、だれが首謀者なのか、さまざまなことが今も謎とされる。犠牲者の数は3千人とも6千人ともいわれ、パリだけでなくフランス全土で、罪なきプロテスタントが、もしくは無関係にもかかわらず巻き込まれた人々が屍となった。恐怖が王国全土を包んだことだけは確かである。

さて、映画の中心は、この狂気の日々というより、マルゴとあるプロテスタント貴族の男との愛の物語である。彼女は虐殺の前夜、街で一人の男と関係を持つ。彼はプロテスタント貴族の一人で、虐殺の日にたまたまマルゴと再会し、彼女に命を救われる。出会ったときからか、それとも再会によってか、彼らは激しい恋に落ちる。男はマルゴを連れ去るため、命をかけて敵陣である王宮に戻るのだが・・・ここからはネタバレになるので控えよう。

この映画を評価するなら、その配役の的確さに対してであろうか。シャルル9世王なぞ、肖像画から出てきたと思うほど、イメージどおりの人物で驚く。同時代人の証言を信じるなら、カトリーヌ・ド・メディシスはもっとふくよかな体型だったろうと想像するが、こんな感じの人柄だったろうと思わせるような演技が素晴らしい。なんといっても、マルゴ役のイザベル・アジャーニの魅惑的な美しさは、19世紀に流行した「ファム・ファタール」とは彼女のことだろうかと思うほどである。

ただ、個人的にこの時代に関心をもっているだけに、どうしても史実との乖離点に目がいってしまって純粋に楽しめない。原作が小説だからそこは仕方ないのだし、そういう態度でみるものでもないのだが、この時代を本気で映像化した作品がないだけに、思わず欲張ってしまう。日本人には馴染みのない歴史だろうから、資料としてみるには適しているが、これを丸々信じるのは危険ということだけをここに記したい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: film
感想投稿日 : 2017年5月13日
読了日 : -
本棚登録日 : 2016年3月14日

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