氷壁 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1963年11月7日発売)
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本棚登録 : 1911
感想 : 215
5

登山家である魚津と小坂はもとより周辺の人物も実に巧く作り上げられていて、現実感と創作技の絶妙な塩梅にいたく感心させられました。
実在の事件を取り扱いながらその問題性や事件性に焦点を当てすぎることなく、山で散る二青年や年の差の開いた夫婦、恋する少女、部下を思う上司らの姿を過不足ない素晴らしいバランスで描き出すことで「生きること」を読者に見つめさせる腕前が実に素晴らしかったです。
二青年の手記や「好きだった詩」の引用も控えめゆえに効果抜群。魚津のメモには胸を撃たれました。
終始ほどよい距離感のためか爽やかな後味。

しかし青年たちの描き方がとにかくいい。
私が女だからか、いや、女であれば厳しく見えたりもすると思うのですが、「男が泣く」描写が多い割に女々しさを感じないのも不思議です。
そんな中、魚津・小坂の関係性ではなく距離感と佇まいに萌えました。
「何の因果か知らんが、お前の作る雑煮ばかり五年食ってる」
このセリフは強烈です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: あ行
感想投稿日 : 2016年11月11日
読了日 : 2016年2月16日
本棚登録日 : 2016年2月16日

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