あきらめない心: 心臓外科医は命をつなぐ (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2016年4月28日発売)
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著者の天野篤医師(1955年~)は、2012年2月に天皇陛下の狭心症冠動脈バイパス手術を執刀して一躍有名になった心臓外科医。(現在は順天堂大学病院院長)
本書は、天野医師が日本でも指折りの技術を持つ心臓外科医になるまでを振り返り、その体験や思いを綴ったものである。2012年に『一途一心、命をつなぐ』の書名で出版、2016年に文庫化された。
本書を読んで強烈に感じたのは、天野医師の“心臓外科医としての揺るぎない信念”である。
天野医師は、3浪を経て日本大学医学部に入った、「飛び抜けた受験エリート」ではなく、医学部卒業後に目指した民間医院の研修先の試験でも不合格となり、(本人曰く)「また挫折」をしている。医師になってからも、心臓外科医としての道を本格的に歩み始めた亀田総合病院(千葉県鴨川市)では、関係の悪化した師匠からクビを宣告され、また、その後、新東京病院(千葉県松戸市)で全国的な実績を上げて、46歳で移った順天堂大学病院では、自身の赴任を快く思わない病院関係者から批判を受けるなど、“大学病院”の壁にぶつかってもいる。
しかし、「どんなに高邁な理想を語っても、どんなに偉そうなことを言っても、患者さんがよくならなければ誰も認めてくれない。手術の結果が悪ければ、どんな立派な看板を掲げていようと、どんなにたくさんの論文を書いていようと、心臓外科医としては失格なのだ」、「患者さんには「この病院で手術をして本当によかった」と思ってもらいたい。スタッフには「厳しいけれど、ここで働いてよかった」と思ってもらいたい」という強い信念をもってそれらを乗り越えてきたことが(様々な心の葛藤があったことは書かれているものの)、熱いトーンで繰り返し語られている。
そして、知命を越えた私に一番響いたのは、「あとがき」に書かれた、天野医師が父の遺品の手帳から見つけ、天野医師もそれ以来眺めるようになったという、サミュエル・ウルマンの詩、「青春とは人生のある期間を言うのではなく心の様相を言う」、「年を重ねただけで人は老いない。理想を失うときに初めて老いがくる」というフレーズである。
日本の心臓外科の第一人者の思いが余すことなく綴られた一冊である。
(2016年5月了)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2016年5月7日
読了日 : 2016年5月7日
本棚登録日 : 2016年4月30日

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