戦場を歩いてきた: カラー写真で読み解く戦場のリアル (ポプラ新書 さ 11-1)

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  • ポプラ社 (2017年8月9日発売)
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著者の佐藤和孝氏(1956年~)は、30年以上に亘り世界各地の戦場を取材してきたジャーナリスト。2003年には、ボーン・上田記念国際記者賞特別賞をパートナーであった故・山本美香氏と共に受賞している。
本書は、「日テレNEWS24」で2016年8月から配信されている「特集 戦場を歩いてきた」で取り上げられた、1980年代~90年代のアフガニスタン(第1章)、昨年から今年にかけてのイラクのモスル(第2章)、同じ時期のウクライナ(第3章)についての取材の記録である。
佐藤氏は、24歳で初めてアフガニスタン行きを決意したときのことを、「何が起こっているのか。この目で見たい」という思いが再び湧きあがってきた(中学生の頃に既に、ベトナム戦争の現場が見たいと思っていたそうだ)、と記しているが、この率直な思いが、佐藤氏を30余年に亘って、危険と隣り合わせの第一線に立たせている原動力となっているのであろう。戦場を主たる取材対象とするジャーナリストがまず受ける質問は、「ジャーナリストはなぜ、命を危険にさらしてまで戦場に行くのか?」というものであり、佐藤氏も本格的にジャーナリストとなってからは「戦場に立ち、目で見たありのまま、真実を伝えることで世の中を動かしたい」という強い思いがあるというが、根源は、中学生・24歳のときに湧きあがったものなのだ。
その佐藤氏が我々に伝えるものは、紛争地の戦闘の様子ではなく、そこで暮らす人々の日常生活である。
そして、佐藤氏は語る。「自分は廃墟と化した街を出て行くことができる。でも彼らはできない。同じ人間なのにわたしは安全圏に自由に出られる。自由を奪われた彼らには地獄の日々が続く・・・」、「紛争地の人々の暮らしはさぞ悲惨だろうと思われがちだが、百メートル先が最前線でも、みんながみんな泣き叫んでいるわけじゃない。むしろ笑っていることの方が多い。最前線にいても、お茶を飲んで談笑している。希望だって持っている」、「彼らはユーモアもあるし、冗談もよく言う。映画やテレビドラマを楽しみ、おいしいものには目がない。ただ紛争地に生まれ、戦争という不条理の中で暮らさざるを得ないのだ」、「わたしは事実をそのまま伝えることしかできない。それがわたしの仕事なのだ。わたしは自分のやるべきことをやればいい。やたら同情的になることはない。ジャーナリズムとボランティアは違う」。。。
しかし、こうも語るのだ。「厳しい状況で生きる人の映像なり記事なりを見たら、そこから考える機会を持ってほしい。わたしの願いはそれだけ」と。
本書の取材にもあるように、近年世界の最大の脅威のひとつであったISの主要拠点モスルは陥落したとはいえ、世界各地で続く様々な紛争が根絶する気配は全く見えない。日本に生きる我々は、本書のような情報に絶えず触れることにより、世界の現状を再認識し、自らの立ち位置を考えていく必要があるのだと思う。
(2017年8月了)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2017年8月11日
読了日 : -
本棚登録日 : 2017年8月10日

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