まほろ駅前番外地 (文春文庫 み 36-2)

著者 :
  • 文藝春秋 (2012年10月10日発売)
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感想 : 579
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 「番外地」というだけあって、本書は「まほろ駅前多田便利軒」の外伝を集めた短編集となっている。

 「まほろ…」の主役は、便利屋・多田と居候・行天である。語り手は多田だが、二人主人公による両輪馬車、バンドで言えばドゥービーやクリエイションみたいなツインドラムの重さを軸に据えながら、実に庶民的な事件を扱う軽ハードボイルドの趣きが味わい深い。この二人のキャラクター造形だけで、直木賞賞受賞作の出来栄えは既に決定してしまった、と言っていいほどであった。

 さてその前作で扱われる様々な事件(というか出来事)に登場したキャラクターのそれぞれに再登場願って、それぞれに物語をまたひとつひとつ作り上げたというような本書、まほろ市の住民の一団がこうしてそれぞれの世界を語られることで、さらに究極の架空都市でありながら、どう見ても町田市をモデルにしたとしか見えない<まほろ市>は人間味と人情味とでより味わい深く捨て難い魅力溢れる三浦しをんの街になってゆくのである。

 卑しい街をゆく探偵という、ハードボイルドの軸はそのままに、冷血で血も凍るような87分署的なニューヨークではなく、天才男優・松田優作が主演した伝説的ドラマ『探偵物語』のあの街みたいに、あたたかな仲間たちでいっぱいの卑しくも魅力溢れる街を、三浦しをんは奇しくも別の形で再現し、さらに行天という印象的な主役の一人を優作の子・龍平がこれ以上なくフィットしたかたちで演じている不思議をこそ、エンターテインメントの極みそのものとしてぼくは素直に味わいたく思う。

 子供の世界、老人の世界、悪党の世界、などが、多田と仰天という両輪馬車を取り巻き、街を賑わす華麗なる人間模様を読むにつけ、思う。三浦しをんの作品世界の豊かさを。深みを。そして絡み合う人と人との運命の面白みを。

 不思議なことに前作の文庫解説を鴻巣友季子、本書の解説を池田真紀子、どちらも女流翻訳家として海外ミステリ読みには馴染みの深い人たちだが、こういう日本小説の解説を書くんだな、と改めて出版社の粋な計らいに驚きを感じる。翻訳家が国産小説の解説を書く、ということはとても珍しいからだ。

 さらに本書と同じタイトル『まほろ駅前番外地』がテレビドラマとして放映され、贅沢にも映画と同じ瑛太・松田龍平の二人キャスティングそのままに一話完結型式でDVD化もされている。すべて見たわけではないが、原作にはない物語ながら、多田と仰天のカラーやまほろの雰囲気はそのままにオリジナルで小説とは別個の映像化作品として楽しめるので、まほろファンには是非、お勧めしておきたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ヒューマン
感想投稿日 : 2014年2月5日
読了日 : 2013年12月13日
本棚登録日 : 2014年2月5日

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