短編集なので前作のエンジェルボールで味わったほどの感動は期待していなかったが、思い切り裏切ってくれました。決してミステリーやホラーではないが、登場人物の置かれた状況にドキドキしたり安堵したり、著者の文章力の高さもあって小気味よいテンポで読み進むことができる。とはいえ、実は登場人物の心の中に刻まれたいくつものエピソードが月日をまたぎ場所を変えて物語のレイヤーを構成していて、短編とは思えないボリュームの読後感を残してくれた。ストーリーもさる事ながらこの著者の描く風景描写はこれまで読んだ本の中でもダントツの彩度を放っている。空の色や風の匂い木々が奏でる音や水の冷たさまで、まるでその場にいるように伝わってくる。どれも映画を一本見終えたような深い余韻が残る作品ばかりだ。若い感性にも、人生をある程度経験した年齢にも響く一冊に間違いない。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2016年11月4日
- 読了日 : 2016年9月24日
- 本棚登録日 : 2016年11月4日
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