ある微笑 (新潮文庫 サ 2-2)

  • 新潮社 (1958年5月5日発売)
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感想 : 51
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主人公のドミニックが、元彼の叔父「リュック」を愛していると気が付くところがハイライトだと思った。
ドミニックが、この恋愛を受動的でなく、自分の自発的な動機による能動的なものとして捉えた瞬間がこの小説の感動の中心だ、と僕は理解し、感動した。
似たような感覚を最近の作家の作品でも感じた記憶がある。辻村深月のデビュー作「冷たい校舎の時は止まる」(2007/8/10講談社文庫)の脇役=生徒会副会長の桐野景子が失恋を実感する瞬間だ。失恋した、と悲しむのではなく、失恋をしたことによって自分が苦しんでいる、と認識し、失恋で自分が苦しんでいる事に衝撃を受ける感覚を表現したシーンだ。(と書いて心配になったので十年ぶりに読み返してみた。第十二章「スカーレット」。少し違った(^_^;)

つまり、自分の感覚に耳を傾け、自分の心の声を聞く瞬間である。

自分の欲望を知っている人とは、恋人としても、友人としても付き合いやすい。逆に、自分の欲望を認識せず、何をするにも、他者に理由を求める人とは付き合いづらい。
この違いは、一人旅ができる人と、一人で旅行出来ない人の違いだと思う。
僕は
「え? 俺、一人で旅行に行ったこと無いよ。」
と言う人を知ってる。
一人で何処にでも出かける人と、一人では出かけられない人との間には、実は大きな溝がある。でも、一人旅をしない人は、その溝を知らない。
一人旅が出来ない人と旅行に行くと、とても不愉快で面倒な事になるが、その一方で一人旅が出来ない人は、その不愉快の原因を他者に求めて、そのつじつま合わせ(自分への言い訳)が非常に上手く、自分にその責任があることを(自分自身に対しても)巧妙に言いつくろって認めない。
実際のところ、一人旅が出来ない人というのは、自立の能力が無い、と言うことなのだろう。
Strength is ability to stand alone.
中学か高校の英語の例文(日本人と対比して、アメリカ人が一人前の大人に必要な能力を述べたせりふ)だが、
僕は、「日本人だから、独立心が低くて当たりまえ。」とは思わない。
ドミニックが大人の女への扉を開いた鍵は、一人前の大人として、社会で人と対等に付き合うために必要な鍵でもあると思う。ただし、必ずしも誰もが手にする鍵ではない。一生その鍵を持たずに終える人もずいぶんといるのだろうと思う。でも、僕は付き合うなら、この鍵を持っている人と付き合いたいと思う。
ドミニックはこの小説で語られる一年で、魅力的な大人へと変貌を遂げたと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 恋愛小説
感想投稿日 : 2015年3月6日
読了日 : 2015年3月6日
本棚登録日 : 2015年3月6日

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