蹴りたい背中

著者 :
  • 河出書房新社 (2003年8月26日発売)
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高校に進学して二箇月。クラスメイトの蜷川と私=長谷川ハツは、どうやら仲間。特定の仲良しグループを無理して維持しようとしない仲間。
しかし、それは正義感やポリシーではなく、無理して繕う人間関係の面倒くささから。
一方蜷川は、我が道を行くアイドルオタク。
私が、蜷川が追っかけるアイドル(ていうかモデル)と中一の時に会っていることが判明し、二人の奇妙な交際?が始まります。

2003年下半期第130回芥川賞を金原ひとみ「蛇にピアス」(集英社2004/1)とともに、史上最年少で受賞した作品。一箇所を除いて、前作同様主人公の主観に徹したインナーハードボイルドですが、本作で描かれるのは、奇妙な彼と、彼に対するハツの奇妙な感情。

コミック版インストール(みづき水脈と共著。講談社コミックデザート二一一巻2003/3/13)の巻末著者対談で当時執筆中だった本作を「黄ばんだ青春モノ」と自ら語っているように、いわゆる普通の恋愛小説ではありません。いわゆる普通の恋愛小説と言うのは、出会いとトキメキがあり、感情の葛藤やちょっとした行き違いの後にデートをしたり、その他のことをしたりして、別れるというような恋愛小説。
本作は、もっと本能的な……ていうか、間違った本能的なというか(汗)……「おしゃべりをしたい」とか「手をつなぎたい」など、今まで当たり前として語られていた異性への恋愛感情ではなく、タイトルの通り、「彼の背中を蹴ってみたい。」相手にしてみれば、迷惑な感情。
しかし、それを受け止める(または気付かぬふりをする。または本当に気付いていない)蜷川のオタクっぷりが微笑ましい。もしかして、本当は懐が深いのでは?と勘ぐってしまいました。
打算的な大人の恋愛とは異なる、正直な(しかし奇妙な)恋愛感情が逆にすがすがしく感じられた一冊でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2015年11月21日
読了日 : 2015年5月15日
本棚登録日 : 2015年5月15日

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