日本が平均寿命で男女共トップを争うようになった中、どれだけ多くの人が、今の終末期医療の歪みに気づいているのだろうか?
膨張し続ける医療費の中で終末期医療への割合は想像よりも高いようだ。
ちなみに厚生労働省の統計によると、平成22年度現在、医療費総額は年間37兆円、そのうち75歳以上に対しては約12億円と30%以上を占める。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/10/index.html
終末期医療が死を間近にした高齢者に対して安らかな死を保証するものならいい。でも実際にはどれだけ多くの人が、胃ろうを始めとした管につながれて、果たして自覚的にその上でも命を永らえたいと感じているのだろうか?
著者は、ややグロい医療小説で有名だが、本書では、自身の小説でも基底となって流れているテーマ、終末期医療の現実を取り扱っている。
この長命の時代に、「長寿の危険に備えているのか?」と疑問提起することは貴重である。
ものが口から食べられ無くなってまでも生きたいのか?と真剣に考えたい人は本書を読むべきである。
人は自らの死に時を自分で選ぶ権利があるはず(と信じたい)のだが、実際には、どこかの時点で自らが治療を選ぶ権利を消失するポイント・オブ・ノーリターンが存在する。がん治療で他臓器に転移した状態とか、脳卒中で病院に運ばれた時、そして認知症治療を受けながら身体合併症を持った時など、患者サイドからすれば自らの選択の余地が殆ど無い状態で、医師から説明を受けたり、家族の意向に従わせられたりするものなのだ。
延命を選択した(された)その結果が、安らかな死に繋がっていないことを著者はこれでもかと例示する。一方で、末期がんと告げられて、治療をしないと決心した人に安らかな死があったことも例示されている。
そう、治すための治療を、治らない病気にすることは、本来は矛盾しており、それにすがることによる生活の質の低下に関して、我々はもっと自覚的であるべきなのだと思う。
私はこう望んでいます。願わくば、従容と死を受け入れたい、そんな素朴な希望が自分や自分の愛する人が叶えられますように…。
- 感想投稿日 : 2012年12月31日
- 読了日 : 2012年11月30日
- 本棚登録日 : 2012年11月29日
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