アリストピア

著者 :
  • エフ企画 (2000年5月25日発売)
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感想 : 20

再読。ほとんどの乗客は眉間に蛾を留まらせているのだ。翅の眼状紋を自分の目に見立て、視界を遮断する人々のなかで、少女だけは擬態の目を身に付けていない。
見えないから見えるもの、見えるからこそ見えないもの、見たいこと、見たくないこと、見なくていいこと、見ないふりをすること。
どんなふうに物事を見るかで迷い、対象を目に入れれば惑いが生まれる。それでも、世界を知りたいと望むなら、瞼は開けておかないとね。七分の二十二時間の輪は回る。今日も、静かに狂った街を循環する地下鉄に揺られていこう。窓一面に広がる闇に、閃きを探して。

"わが傘は 傘にあらずして
わが瞳は ものを見るものにあらず
もの見るものは 惑わされ
もの見ずしては 生きられぬ
しからば 生きるは惑わしのこと"
《2022.01.09》

『七分の二十二時間』の物語。
私のよく知るアリスが夢の世界を冒険しているとしたら,こちらに登場するアリスは「夢の裏側」にいるよう。「悪夢」としないのは,彼女が乗る地下鉄の車両はカオス・シティを巡っているわけだけど,終着駅が地上駅である可能性もあるから。

大竹茂夫さんはトリイ・ヘイデン著書の装画の人,という印象が私のなかでは強く,見ていると不安になってきて背筋にひやりとした汗が流れるのを感じる。彼の描く異形の者たちは皆,キノコみたいに菌糸を持っているから,一度みた者の心に居ついて二度と出ていかないのだと思う。
《2014.07.11》

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 芸術
感想投稿日 : 2022年1月9日
読了日 : 2022年1月9日
本棚登録日 : 2022年1月9日

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