戦国の貧乏天皇

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  • 柏書房 (2012年10月1日発売)
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 実権を失ったにも関わらず、よくも天皇家は生き残ったものである。異国では支配者が変われば王族は皆殺しで断絶という例もあるだろう。なぜ日本の天皇家は鎌倉以後八百年も生き延びることができたのだろうか。

 公家政治の平安時代が終焉を迎え、武家政治を開いた鎌倉幕府を経て室町幕府、そして戦国時代に至って天皇家は不遇の一途を辿る。表題の通り貧しく、壊れた内裏も直せず、即位式を行えないので譲位もできない、葬式もなかなかあげられない。
 それでも天皇家の威光というものは存在し、それを利用しようとする武家と丁々発止の化かし合いを繰り広げ、また隙あらば保身に走る公家達を取りまとめ、したたかに生き延びたのが戦国の貧乏天皇である。

 明治以前では最後に表舞台に立ったの天皇が後醍醐天皇で、鎌倉幕府を滅ぼすもわずか3年で破綻、政権は室町幕府に引き継がれる。それでも「天皇」という存在は残された。雑な推論だが日本式の「神輿を担ぐ」という習慣がそこにあるのかもしれない。本当の権力者は表に立たない。やっかみを集めるからである。誰からも文句のつけられない存在、それでいて実権は持たない、そういう存在が日本には必要とされていたのだろう。

 天皇や公家は貧しいながらも学業を尊び、窮乏の中でも前例を極力崩そうとはしなかった。その姿勢は滑稽でもあり、一方で日本の貴重な古来文化(源氏物語などの創作、あるいは日記文学など)を現在に残すことに貢献した。彼らの必死な生き様が私達の文化の背景にあるのだと思うと、滑稽と笑ってばかりもいられない、感謝の念が絶えないのである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 論考
感想投稿日 : 2017年4月28日
読了日 : 2017年4月28日
本棚登録日 : 2017年4月28日

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