パリ駐在員のパートナーを持ち、料理教室に通うというのはよく聞くような「外国で学んできました料理研究家の女性」の経歴かと思えば、そんなヌルいものではなかった。コルドンブルーでなぜ食材をこのように切るのか?と考えていると手順が遅くなる、そこはアメリカ人の同期から早い作業の必要性も学ぶ、さらにパリのレストラン、アルページュに掃除係としてもぐりこみ、パイナップルのロースト(とても手がかかる)を成功させデザート係に、というところからですよ、この穏やかな語り口からは想像できないほどの情熱、まず最初に掃除の仕事から入るという、衛生を求められる調理場は、汚れているのは目ではなく匂いで判断されるというのに、目からうろこがぼろぼろ落ちる洞察力。駐在員の奥様だったら掃除係の仕事を選ばないでしょう、これは本気である。
最初は知り合いのホームパーティの手伝いをするうちに、フランスの国民的料理・ラタトゥイユを丁寧につくりメインディッシュにする(全ての野菜を別々に炒めている・これはとても時間がかかる)というその手間隙にぐっとくるし、そのディナーゲストがジャン・ポール・エヴァンが招かれているのに気が付き、デザートにチョコレートを出さなくてよかったと冷や汗をかくが、実のところ、彼女がパリにきたときにエヴァンのチョコレートは本当に素晴らしいと思っていて、2粒を自分のごほうびにとても大事に食べていたというエピソードにさらにぐぐっ!とくるのである。
顧客は壮大なお屋敷に住むセレブリティであったりするが、市場での食材への好奇心、厨房で助けられるメイドに向けるまなざしも優しく、きっと彼女の食材を扱う手は美しいだろう。
- 感想投稿日 : 2015年3月13日
- 読了日 : 2015年3月16日
- 本棚登録日 : 2015年3月8日
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