+++
たくらみに満ちた豊穣な世界文学の誕生!
盲目の祖父は、家中を歩いて考えつく限りの点と点を結び、その間の距離を測っては僕に記録させた。足音と歩数のつぶやきが一つに溶け合い、音楽のようになって耳に届いてくる。それはどこか果てしもない遠くから響いてくるかのようなひたむきな響きがあった――グレン・グールドにインスパイアされた短篇をはじめ、パトリシア・ハイスミス、エリザベス・テイラー、ローベルト・ヴァルザー等、かつて確かにこの世にあった人や事に端を発し、その記憶、手触り、痕跡を珠玉の物語に結晶化させた全十篇。硬質でフェティッシュな筆致で現実と虚構のあわいを描き、静かな人生に突然訪れる破調の予感を見事にとらえた、物語の名手のかなでる10の変奏曲。
+++
さまざまな場所のさまざまな時間を束の間旅する心地に浸れる物語たちである。ひとつの物語が終わる度に、物語が生まれるのに影響を与えた人物が紹介されているのだが、その影響の受け加減がまた絶妙で、思わずうなる。物語のエッセンスが胸に沁みこんでくるような一冊である。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
あ行の作家
- 感想投稿日 : 2017年4月5日
- 読了日 : 2017年4月5日
- 本棚登録日 : 2017年4月5日
みんなの感想をみる