スターリン - 「非道の独裁者」の実像 (中公新書)

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  • 中央公論新社 (2014年7月24日発売)
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青年期から殺伐とした革命運動に身を投じた結果、政治における組織論の重要さに早くから気づき、また組織内の敵・味方を峻別する鋭敏な感覚を身に付けていったスターリン。その結果、彼は革命成就後も「社会主義-資本主義」という国家外部におけるイデオロギーの対立を国家組織内部の「体制-反体制」という構図に投影してしまう。これが第一次世界大戦におけるそれよりも多くのロシア国民犠牲者を出し、後世まで彼の評価が定まらない最大の原因である「大粛清」に繋がったと著者はみる。

本書の出色はレーニン没後の共産党内部における権力闘争の記述。第一次世界大戦により荒廃した産業の再建策についての深刻な対立の結果、スターリンが政敵として後に追い落とすトロツキー等の主張に結局は沿った形で(しかし方法としては比較にならないほど苛烈なやり方で)農業を犠牲にし工業の発展を優先するに至るまでの経緯が、当時のロシアを取り巻く国際情勢やスターリン自身の性向と絡めながら理路整然と描写されており、非常に判り易い。

本書で紹介されるスターリンの少年期の詩や、レーニンの著作を詳細に読み込んでいたというエピソードからは、自分が心酔する対象に無心に打ち込む「素朴な優等生」というイメージが浮かび上がる。この一途さが農民の虐待や大粛清等に寄与した一方で、(政治的要請によるものではあっても)少数民族の権利を尊重し、ロシアそのものの国内事情を重視する「一国社会主義」の提唱、さらには工業化の成功による第二次世界大戦の勝利など、ロシア国民によりアピールする結果に繋がったのは間違いないだろう。ある国における最大の成功と最大の失敗の原因が同時に一指導者に帰せられるとしたら、彼に一体どのような歴史的評価がなされるべきなのだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ロシア史
感想投稿日 : 2014年8月25日
読了日 : 2014年8月23日
本棚登録日 : 2014年8月16日

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