大作の誕生を予感させる技量を感じるが、本作の場合、肝となる「温家宝への書簡」というプロットが、筋立てに何も貢献しておらず、惜しい。
殺人に向かって鬱積してゆく低層カーストの男の、魂の揺れは、読者をはぐらかすような軽妙な語り口で書かれる。ガンジス川を訪れる観光客を揶揄する場面などに象徴的であり、21世紀の「読ませ方」としてはそうならざるを得ないことは理解できる。しかし、描かれる状況は過酷だ。
一方で、インド世界に無知な読者を前提にして書かれており、インドの闇を「広告」することが主眼のように思える。いわば外部に向かった告発本。この小説を、同胞であるインドの読者が読んだ時に、彼らに何かを残すかと考えた時に、疑問は残る。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
アジア・オセアニア文学
- 感想投稿日 : 2017年12月3日
- 読了日 : 2017年12月3日
- 本棚登録日 : 2017年11月19日
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