人里に下りてきた際の危険性…。クマは悪者だと誤解されやすい。が、森はクマに生かされているのだ。生態系の豊かさを担うかけがえのないクマとの共存。北海道の大地で、アイヌ文化と深く接しながら、ヒグマの研究と保護に携わった著者が、その可能性を探る。
ともすると、人間の命を奪う獰猛な野獣として駆除が叫ばれる。そんなクマとの共存をひたすらフィールドで研究してきた著者。30年ほど前には「めしは食えず、卒業できず、就職できず…」と歌まであった「北大クマ研」に属し、見返りを求めず森に繰り出した。その後、のぼりべつクマ牧場に飼育係として就職。自らクマの子どもを育て、「ヒグマのお母さん」と呼ばれるようになった。野生に身を投じる壮絶なまでの人生を通し、著者が培ってきたのが「アイヌのヒグマ観」。アイヌ文化の伝承者たちとともに、カムイチセ(クマの冬ごもり穴)を訪ね歩き、彼等の世界観を共有する。クマは山の神キムンカムイである。植林されて針葉樹ばかりになった森はクマにとって死んだ森。ドングリが無い…と、里に下りてきてしまう。大切なのはクマの駆除より豊かな生態系としての真の森の再生。北海道がいつまでも平和な野生のシリ(大地)であるように。切なる願いが語られる。(S)
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- 感想投稿日 : 2008年8月1日
- 本棚登録日 : 2008年8月1日
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