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いのちの食べかた (よりみちパン!セ)についてのgakuichiさんのレビュー


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毎週一冊本棚を更新します

レビュー by gakuichiさん

生きる作法   読み終わった  読了日 : 2009年11月09日  4  登録日: 2009年11月09日

今週おすすめする一冊は、森達也著『いのちの食べかた』です。森
氏は、オウム真理教を追ったドキュメンタリー映画「A」等骨太な
作品を撮ることで有名な映画監督。本書は、そんな森氏が、お肉の
ことを追っかけたドキュメンタリー本です。

生きた牛や豚がお肉になるためには、当然、誰かが殺さなければな
りません。殺す場所は屠畜場ですが(今は「と場(とじょう)」と
言うそうです)、その存在も、そこで何が行われているかも、僕ら
はほとんど知ることはありません。東京で有名なのは、品川の中央
卸売食肉市場(芝浦と場)ですが、築地の魚市場に比べると、圧倒
的にマイナーな存在です。

本書は、肉食の歴史を辿った後、この「と場」に足を踏み入れ、そ
こで何が行われているのかを描いていきます。以前、ある映画で屠
畜の場面は見ていたのでだいたいの感じはわかっていましたが、そ
れでも本書で描かれる屠畜の過程は、実に興味深いものです。特に
印象的なのは、そこで働く職人達の姿でした。屠畜もまた職人技の
世界で、語り継がれるような伝説の職人達が生きる世界なのです。

当たり前ですが、どんな世界にも人の営みがあります。そして、人
の営みがあるところには、人の尊厳の問題があります。屠畜につい
て考える時、この尊厳の問題は特に重要です。何故なら屠畜は、部
落差別と結びついてきたからです。本書は、この差別の問題にも迫
っていきますが、そこで明らかにされるのは、人が人を差別するこ
とのどうしようもなさであり、人を貶めないと生きていけない人間
の愚かさです。

このどうしようもなさ、愚かさを克服するために本書は「知る」こ
との大切さを説きます。知らないから、知ろうとしないから、思考
停止になる。思考停止をした人間は、どこまでも愚かな行為に加担
できてしまうのです。そうやって私達は無自覚のうちに多くの過ち
を犯してきました。全てのことを知ることはできませんが、知ろう
という努力を続けない限り、私達は、犯す過ちを少なくすることを
できないのです。

アル・ゴアではないですが「不都合な真実」から目をそらさずに生
きることが大切なのです。見ようとすれば見えるのに、目に入らな
い世界。見たくないから目をそむけ、なかったことにできてしまう
世界。私達の周囲にはそんな世界が溢れています。思考停止しない
ために、自分や他人の尊厳を守るために、目をそむけることなく、
そういう世界と向き合って生きていくことが大切なのだということ
を本書は教えてくれます。

中学生向けに書かれたシリーズのため、読みやすく、短時間で読め
てしまします。なのに、ずっしりとした手応えが残る一冊です。
是非、読んでみて下さい。

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▽ 心に残った文章達(本書からの引用文)

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知ることは大事なのだ。人は愚かだと昔からよく言われていたけれ
ど、知っていることを間違えるほど愚かじゃない。知らないから人
は間違う。(中略)何が大切で何がどうでもよいかの判断は、知っ
てから初めてできる。知らなければその判断もできない。

世界には数え切れない「誰か」がいる。その「誰か」がいるから、
僕たちの生活は続いている。

僕らは、とても忘れっぽい。
言い換えればすぐに、目の前の現象や今の環境に馴れてしまう。そ
れが当たり前になってしまう。これを思考停止という。

牛や豚がと場(とじょう)で殺される理由は、僕らが食べるからだ。
ところが僕らは彼らの哀しみを知らない。見て見ないふりをしてき
たのだから。知らないのだから、だから平気で肉を残す。残した肉
はゴミ箱に捨てられる。
でも、彼らを殺す役目を引き受けた職人たちは、肉の一切れでもむ
だにしたくないとばかりに、汗をかきながら懸命にナイフを振るう。
いのちを食べるからこそ、いのちをむだにはしないことを、彼らは
知っている。

と場がどこにあるのか、何をしているところなのか、なぜ多くのこ
とが語られないできたのか、目をそむけるうちに、僕らはいつのま
にかそんなことを忘れ始める。
そしてそのうちに、目をそむけたのが、自分自身であることすら忘
れてしまう。

人って不思議だ。一人一人はまあまあだけど、複数になったり組織
を作ったりすると、たちまちどうしようもないほど愚かになる。

そもそも僕らの営みは、人を傷つけたり傷つけられたりすることで
あり、これは人を愛することや愛されることと同義なんだ。(中略)
人を愛さない人はいない。だから人を傷つけない人もいない。君も、
あなたも、彼も、彼女も、いつも誰かを愛しながら、いつも誰かを
傷つけている。これが人生だ。何十億ものそんな営みが、この世界
を作り上げている。

大切なことは「知ること」なんだ。
知って、思うことなんだ。
人は皆、同じなんだということを。いのちはかけがえのない存在だ
ということを。

僕らが肉を食べるためには、誰かが殺さなくてはならない。彼らは
僕らの代わりに殺すのだ。「穢れ」とか「被差別部落」とかそんな
理由を言い訳にして、僕らはと場から目をそむけ続けてきた。その
結果、彼らも仕事を隠さなくてはならなくなった。

ひとりの職人がしみじみと打ち明けてくれたことがある。
「子どもの学校の宿題が、『お父さんの職業』についての作文だと
聞いたとき、自分は本当につらい思いをした。でも子どもは違った。
作文を後から読んだ。『肉を作るお父さんの仕事は、とても大切で
す。だから僕はお父さんが大好きです』と書いてくれた。嬉しかっ
た。涙が出た。この仕事をやってきたよかったと今は思っている」

肉だけじゃない。僕たちはいろんなものから、気づかぬうちに無意
識に目をそらしている。見つめよう。そして知ろう。

ゆっくり歩こう。いろいろ悩みながら。いろいろ考えながら。いろ
いろ眺めたり、発見したり、ため息をついたりしながら。どうせゴ
ールなんて、そんなに変わらない。

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●[2]編集後記

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土曜日の夜、台所にいたら物音がしました。はっとして振り向いた
ら、洗濯機の横をかけていく影が!そう、ネズミです!今、都内で
はネズミが増え続けているそうですが、我が家も例外ではなくここ
のところずっとネズミの害に悩まされています。

洗濯機を置いてある土間に追いつめることができましたので、これ
はチャンスとばかりに、ネズミとの格闘が始まりました。通り道を
ふさぎ、その通り道に、ネズミ取り用の粘着シートを置きました。
その上でネズミを棒で追い立てます。まさに狩猟の要領ですね。狩
猟本能が騒ぎます!

この戦略が見事に功を奏し、ネズミはまんまと粘着シートにはまり
ました。ただ、全身ではなく、尻尾だけです。急いで洗面所に走り、
洗面器に水を溜めて、ネズミを窒息死させようと準備しました。し
かし、この時に油断したのがいけなかったですね。粘着シートを持
ち上げようとしたところ、ネズミの尻尾が切れて、まんまと逃げら
れてしまいました。その後も格闘していましが、結局、頭の良いネ
ズミを捉えることはできず、トホホな結果になりました。

ネズミを捉えたと思った時、やったーと思ったと同時に、罪の意識
が走ったのも事実です。ネズミは病気を運びますから、家族や自分
を守るためには殺すべきです。でも、それ自身は何の罪もない一つ
のいのちです。家族を守るためには心を鬼にしなければなりません
が、殺したくない自分もいました。だから、とり逃してしまって、
がっくりきたと同時に、ほっとした気持ちがあったのも事実です。

食べるためだけでなく、ただ快適に過ごすためにも、私達は多くの
いのちを奪います。そのことの是非を問われた瞬間でした。 レビュー登録日 : 2011年12月29日


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