奇跡のご当地ヒーロー「超神ネイガー」を作った男~「無名の男」はいかにして「地域ブランド」を生み出したのか~

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  • WAVE出版 (2009年5月21日発売)
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5

ネイガーは、一見、仮面ライダーのような特撮ヒーローに似ていま
すが、持っている武器はキリタンポの形をしたキリタンソードに、
魚のハタハタの形をしたブリコガン(ブリコはハタハタの卵)。顔
のモチーフはナマハゲで、背中には米の字と稲穂の飾りを背負うな
ど、徹底的に秋田にこだわり抜いた、バカバカしくもカッコいい正
義の「ゆるキャラ」ヒーローです。

著者の海老名氏は、少年時代からヒーローに憧れ、一時は格闘家を
目指しますが、脳挫傷であえなく挫折。その後、サラリーマンをし
ますが、子どもの頃からのヒーローになるという夢は捨て難く、生
まれ育った地元でヒーローを作るというビジネスに人生を賭けます。

それが大成功。今では、県内でネイガーのショーをこなす傍ら、他
県のご当地ヒーローを生み出すプロデューサーとして活躍していま
す。本書は、そんな海老名市の半生を辿りつつ、ネイガー成功の秘
密とその背後にあるビジネス哲学を説き明かしていきます。

本書に教えられたのは、地元に徹底的にこだわる「土着」のスタイ
ルが持つ可能性です。地元にこだわるからこそ地元に愛され、支え
られる。そこで生まれる土着の絆は、何ものにも代え難い価値を生
み出すのです。

多くのビジネスは--そして人も--生まれ育った地元を捨て、よ
り広い世界を求めがちです。しかし、より広い世界を目指すことが
本当により多くの可能性に結びついているのか。それよりも徹底的
に地元にこだわることのほうが可能性が開けてくるのではないか。
そういう本質的な問い直しをさせてくれる一冊です。

是非、読んでみて下さい。

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▽ 心に残った文章達(本書からの引用文)

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偉大な先人が作り上げてくれた「特撮ヒーロー」というすばらしい
金型。それを真似るだけではなく、今の時代や、秋田という土地柄
に合わせて発展させたもの--それがネイガーなのだ。

名前はとても重要で、「伝えたい人」に、価値や物語を伝えるため
に大事なものだ。ネイガーは、なまはげの台詞「泣く子はいねぇが
ぁ?」から取っている。

ヒーローの世界観で最も重要なもの、それは「敵」だと僕は思う。
ネイガーがいくらかっこよく活躍しようにも、ある意味魅力的な敵
がいないとネイガーが輝かない。

なぜ、このようにフィットネスでビジネス理論を説明するかという
と、体(自然)において正しいことは、ビジネスでもそのほかすべ
てのことにおいても正しいからだ。僕はそのことを体を鍛える中で
学んだ。

経営は競争社会だ。それは言うまでもない。しかし、「じゃあ組織
の中で競争すれば強い組織ができるか?」答えはノーだ。
僕が組織をまとめるときに意識していることは、仲間どうしを争わ
せず、相手を尊重することだ。(中略)能力で差をつけたら格差社
会が生まれ、いじめ、派閥など、ろくな物を生まない。(中略)競
争しないで成り立っている僕らの組織は競合する敵すらもいない。
つまり無敵なのだ(笑)。

ミクロな地域にこだわることがきっかけとなり、マクロな展開につ
ながっていく。(中略)ミクロが支えるマクロだからこそ、不況に
強いビジネススタイルが成り立つのだ。

僕が現在やっている仕事は正直、一般的価値観では仕事に値しない
ことばかりだ。
朝9時半に会社に集まったら社員とともに晴れの日は海辺を走り、
雨や雪の日はジムのランニングマシンやエアロバイクを使用して30
分から40分の「朝礼」を行う。(中略)曜日によってはそのまま筋
トレをする。(中略)昼寝の後(笑)、粘土をいじってキャラクタ
ー作り。(中略)月曜と木曜の夜は非現実的な「ヒーローアクショ
ン」の世界を満喫する。正義の味方対悪者の立ち回りをしたり、ト
ランポリンで宙返りしながら、「楽しいな!」と強引にメンバーに
同意を求める(笑)。

自分で言うのはなんだが、一つひとつの技術はまさに二流だ。だか
ら僕は秋田の地域で生きることを選んだ。秋田には二流の何でも屋
でも「受け入れてくれる空間」がある。そしてお客さんとのふれあ
いの絆がどれほど強いビジネススタイルを産むかを実感している。

「子ども達の夢が大人になめられたらアウトだぞ」
僕らはお金の手段のためにヒーローを演じているのではなく、子ど
もの夢と向かい合うことを職業にしたのだ。

「子どもの目線に降りられる、それが本物のヒーローだ」

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●[2]編集後記

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昨日の日曜日、晴れた空を見上げながら「森の中を散歩したい」と
妻が急に言い出したので、都立小金井公園に行ってきました。

車で行くと我が家からたったの十五分。そんな近くなのに、広い緑
地と武蔵野の雑木林のある、とても気持ちの良い場所でした。こん
なに近くにこんなに良い場所があるなんて、全然知りませんでした。

娘はどんぐりを拾ったり、大きな木の枝と格闘したりして大はしゃ
ぎです。一つとして同じ物がない森の中は、子どもには、発見の喜
びに満ちた魔法の玉手箱のようなものなのですね。

公園内には、江戸から昭和にかけての建物を移築した「江戸東京た
てもの園」がありました。ル・コルビュジェの弟子の前川國男邸が
あったり、藁葺きの民家があったりと、思いがけず充実した展示で
す。伝統とモダン、和と洋の間取りや道具の違いを見比べられるの
で、何とも興味深く、いつまでいても飽きない空間でした。

民家では囲炉裏に火がともされ、ボランティアの老人達が昔の生活
を語ったり、玩具つくりを教えてくれたりします。娘は風車作りを
教えてもらい大喜びでした。風車をクルクルさせながら古い街並み
を駆け回る娘の姿は、何だか幻想的で美しいものでした。

個人的には竹馬が面白かったです。子どもの時以来ですから30年
ぶりくらいでしたでしょうか。最初は戸惑いましたが、すぐにカン
どころを思い出して、自由に操れるようになりました。身体の記憶
というのはたいしたものです。

眠っていた記憶が呼び覚まされる感覚というのは、何ともワクワク
するものですね。究極のエンターテイメントを味わった気分です。
エンターテイメントの本質はドラマや表現にあるのではなく、忘れ
ていた気分や感覚を思い起こさせることにあるのかもしれません。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: デザイン
感想投稿日 : 2011年12月29日
読了日 : 2009年10月5日
本棚登録日 : 2009年10月5日

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