東南アジア史研究者による歴史学及び歴史教育学に対する提言です。現在の歴史教育に関する問題点を高校教員側、教科書作成者側、入試問題を作る大学などに指摘し、また東南アジア史研究者として現行の教科書に対する批判を行っています。確かに著者が言うように「王朝」や「国家」の概念は中国やヨーロッパのものが基盤となっており、それがそのまま東南アジアにも適用している状況は問題といわざるを得ません。近年「港市国家」という言葉がようやく高校世界史の教科書にも出てくるようになりましたが、領域支配というのも普遍の統治形態ではないことは「都市国家」を学んでいれば十分理解できることでした。しかし、それをギリシアなどには当てはめても東南アジアの国家形態には無頓着であったのは単に東南アジア史研究者が教科書執筆に参加していないからというだけではないでしょう。「ヨーロッパ中心史観」の脱却が叫ばれて久しいのに、まだまだそれが達成できていないことを気づかされます。また、近年先に紹介した早瀬晋三先生しかり東南アジア史研究者からの「世界史」に対する提言が積極的に行われているように思えます。そして、明らかに我々教員側も「東南アジア」に対する視点が変わりつつあると感じます。更にいうなら、著者が勤めている大阪大学のカリキュラムや取り組みも本書で紹介されていますが、これだけ歴史学が盛んな日本において、折角の成果を諸外国に発表する能力を持たない現在の大学教育の現状は確かに問題有りといわざるを得ません。外国語が全く不得手な私ですが、もしこの本に大学時代触れていたらもう少し英語や中国語の勉強を頑張っていたかもしれません。
- 感想投稿日 : 2009年7月30日
- 読了日 : 2009年7月30日
- 本棚登録日 : 2009年7月30日
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