白川静 漢字の世界観 (平凡社新書) についてのzhangtanさんの感想

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zhangtanさんのレビュー

私が白川静を知って十年を過ぎました。しかし、私はまだ白川学(白川漢字学という言葉があるが、白川先生は漢字だけでなく広く民俗や思惟構造などと幾重にも連結し合って一つの学問となっているのでこう呼びたい。この言い方は本著でも使われている)の麓にも立てないでいます。それもそのはず、“白川静"という日本で最後の碩学が90年以上かけて築き上げてきたであろうものを、私のようなぺーぺーがおいそれと登れるものではありません。それでも登りたいという気持ちが沸き起こるところが白川学の魅力です。そんな白川学の入門書として書かれたのがこの本です。松岡正剛という人は、歴史的素養という点で私はあまり良い感触を持ってません。私は以前彼の本を紹介してますが、歴史的知識において間違いが多々あり(歴史に関する内容が中心の本なのに!)、なぜこの人が白川学の入門書を書くのかという疑問を持っていました。実際読んでみますと、白川先生の一連の研究内容、事績等無難に解説しています。白川学の入門書としては便利な本ではないでしょうか。ただ、それだけ。白川先生の本を実際に読んだことのある方なら感じられたでしょうが、先生の文章は一文字一文字がこちらに迫ってくるようであり、訴えるようであり、圧倒されます。その感動こそ白川学の魅力であり土台であり、入門である。私はそう思います。そのことが十分に伝えきれてないのは残念です。また、白川学をすべて“正しい“というニュアンスで書いてあるところにも気になります。もちろん、私は白川学にのめり込んだ人間ですので、白川先生の説こそ!という思いはあります。ただ、白川先生の魅力の一つはその“異端”性にあるのではないでしょうか。歴史学で京都学派の重鎮貝塚茂樹にかみつき、漢字学で東京の藤堂明保と対立したその異端性に惹かれる人も多いと思います。もちろんこのことは本書でも触れられてますし、白川先生の論争相手に対する想いも書かれてあります。しかし、白川先生は誰にもおもねらず、自身の信じた研究を進めていった結果として先生独自の学説が成立したのです。そういう学問に対する姿勢が人々を引き付ける要因となっているのだと思います。だからこそ、白川静という人物は我々白川先生の学問に触れようとする人達が無批判に自分の説を“正”とすることをよしとするような人でもないのではないでしょうか。自分の説が正しいかどうか、あなた自身が確かめなさいとおっしゃるのではないでしょうか。とりあえず、何にしろこの本は入門書としての役割は十分に果たせるものであることは間違いありません。 ちなみに、案の定歴史的な事実に関する間違いもありました(白川学に直接関係のないところなのですが、P83に夏王朝が歴然たる実在の王朝となったと書かれてありますが、中国ではそう扱われてありますが、日本の研究ではそこまでは言ってません。夏王朝のモデルとなった国家があったであろうというニュアンスの方が正しいと思います。また、春秋戦国時代についてP174に「鉄器が発達し、兵器製造がさかんになる。これが文官と武官の分離を促進して、次の「戦国七雄」が群雄割拠しあっていく戦国時代の舞台になっていくのです。春秋時代は数千人単位の戦争だったのが、戦国時代はほぼ100万人単位の戦争になった・・・」と書いていますが、当時の鉄器は鋳鉄ですのでもろくて武器には使えません。武器は春秋戦後時代を通じて青銅器が主流です。また、私の専門は戦国時代でしたが、100万人の戦争など戦国偉大にはでてきません。戦国期最大の戦いである長平の戦いでも、史書には「死者四十五万」で帰還できたのが250人であるとしかでてきません。)
2009年01月05日 00:50:43

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