ある奴隷少女に起こった出来事 (新潮文庫)

  • 新潮社 (2017年6月28日発売)
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ある奴隷少女リンダの伝記小説
126年後に実話と証明され作者が主人公の奴隷少女だったとわかるという長い時を得て日の目を見た本

奴隷少女が書いたとは思えないほど知的でセンスの溢れる文章
だからこそ、執筆者を著名な白人に間違われていたのかもしれない

それほど物語としての惹きつける力がある
そして彼女に起こる残酷で凄惨な現実に打ちのめされる
死を選ばなかったことを単純に賞賛できないほど苛烈だった
実際自分に置き換えたら...

リンダの弟ウィリアムは言う
鞭で打たれる痛みには耐えられる
でも、人間を鞭で打つという考えに耐えられない

リンダは思う
大きな毒ヘビですら文明社会と呼ばれる地に住む白人男性ほどは怖くはなかった

リンダは奴隷売買に思う
自分の心が啓発されていくに従い自分自身を財産の一部とみなすことはますます困難になった
正しく自分のものでは決してなかった何かに対し、支払いを要求した悪人のことは嫌悪している
私は売られる
私の自由を売買される

リンダは奴隷逃亡生活の苦しい中で尊厳は取り戻していく
自分を差別しない友との交流で
リンダは自分の子供を奴隷制度から逃れさせるため逃亡をするが、人間の自由が売買される制度に強烈な嫌悪感を抱く
剥奪されるのは人権だけではない
尊厳や自主性、主張も持つ事を許されない
奴隷のくせに傲慢だとみなされる

聖書がなんの救いになるのだろう
何を我慢すればいいのだろう
なぜ なぜ なぜ
と憤るしかなかった

弱者に押し付けられる清廉という欺瞞の中で
これだけの意見を持つ彼らはその聡明さが故に理不尽極まりない現実に苦しみ悶えた

リンダの戦いは自由になったから終わるわけではない

奴隷制度が撤廃されても歴史は残る
リンダの言葉は今を生きる私にも必要なもの
先人が血と汗と涙をふり絞って手に入れた人権、尊厳を権力の元に投げ出してはいけないと

リンダという名も無き奴隷少女が綴った小さくて聡明で抗う力を与えてくれる本



読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年7月9日
読了日 : 2017年7月9日
本棚登録日 : 2017年7月9日

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