拾った女 (扶桑社文庫)

  • 扶桑社 (2016年7月2日発売)
3.33
  • (8)
  • (11)
  • (26)
  • (4)
  • (3)
本棚登録 : 161
感想 : 26
4

米国のクライム・ノヴェル界の大家ウィルフォードが著したノワール文学の傑作で、舞台は1950年代のサンフランシスコ。時代を感じさせない雰囲気で実に読みやすい。ストーリーはいたって単純。その日暮らしの男性と依存症の女性が、ぐだぐだな日々を過ごすというもの。女性は寝てるか酩酊してるかのどちらかで、そんな彼女のために男性は日雇いで酒代を稼ぐ。どうしようもない自堕落な生活が描かれるが、どういうわけだかこれが面白くて仕方がない。破滅に向かっているのに、軽いノリで流れていくから悲壮感がまるでないのだ。ここまでの展開はミステリではない。なのにミステリ小説を読んでるのと同じ感覚の面白さと吸引力。

中盤で一気に転調し、ストーリーは思わぬ方向に転がり出す。ここでまず意見が分かれそうな感じだが、私はウェルカムでした。後半にちょいちょい違和感を感じ、終盤で一瞬ダレるも、ラスト二行で背筋が伸びた。予想外の曲球をまともに受けて、しばし事態がのみこめない。これは再読したくなる。違和感の原因がわかってスッキリするもあまり喜べない。なぜならここから本当の物語が始まったからだ。救いようのない悲恋、絶望的な男女の心の闇──これはやっぱりノワールだわ。正直、最後の二行は目にしたくなかったかも。

余談だが、読書中何度も空腹感に襲われ、当時の通貨価値がわからないので何かにつけ「安すぎる…」と唖然としてしまった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外ミステリ
感想投稿日 : 2016年11月26日
読了日 : 2016年11月26日
本棚登録日 : 2016年11月26日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする