姿勢のふしぎ―しなやかな体と心が健康をつくる (ブルーバックス)

著者 :
  • 講談社 (1998年7月17日発売)
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感想 : 15
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著者の成瀬悟策先生の研究は、脳性マヒの患者さんから始まりました。脳性マヒは出産時やその前後の発達中に脳に生じた病変で、随意筋のコントロールがうまくできないため、動作がぎこちなくなり、肢体不自由になることを指します。脳の病変のため、悪化はしないものの、それ以上の回復の見込みはないとされています。そのため解剖学的アプローチと、神経生理学的アプローチをするくらいしか対処法がないとされていますが、それらのアプローチも、十分に効果を出しきれていない面もあります。
 成瀬先生は、あるとき、脳性マヒの子供が、睡眠中に自由に寝返りを打っていることに気がつきました。睡眠という最もリラックスした状態では、脳性マヒの影響が出ていない・・・その姿を見て、成瀬先生は脳性マヒの心理面に注目し、催眠状態でのリラクゼーションと身体の関係を追究し、さらに催眠状態でなくても、リラクゼーションをすることによって、身体に大きな影響が与えられることを体系化していきました。そしてその体系は、脳性マヒの患者さんだけではなく、一般的な健康の問題、心の問題、またスポーツ競技にも応用が可能なところまで広がっています。
 鍼灸師のところにいらっしゃる患者さんで多い症状は、肩こりや腰痛、肩の痛みなどですが、これらは姿勢の悪さや、過度の緊張が継続していることから来ることも少なくありません。また、その姿勢の悪さや緊張は、リラクゼーションができないという心理面から来ることも少なくありません。その両者の改善を鍼灸も目指すわけですが、成瀬先生が提唱する動作法は、それを補う手法にもなりますし、また、動作法を直接しなくても、この手法の根底にある思想は、治療や患者さんへのアドバイスにも大きな指針を与えてくれます。
 この本は講談社のブルーバックスという小さい新書ですが、成瀬先生の研究の過程と、その成果、そして先生の患者さんへの優しい眼差しが詰め込まれた、とても大きな価値ある本です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 医療・医学・健康一般
感想投稿日 : 2010年5月2日
読了日 : 2010年5月2日
本棚登録日 : 2010年5月2日

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