対岸の彼女

著者 :
  • 文藝春秋 (2004年11月9日発売)
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本棚登録 : 3656
感想 : 622
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わけがあって読まなくてはならなくなり、正直しぶしぶ読み始めました。角田光代は名前は知ってますが、ベストセラー作家か…別にいいや。と全く気に留めてない作家でした。
というわけで、初めて読む角田光代作品ということに相成りましたが、いやーおもしろかったです。
確かに始めはうんざりするような鬱屈した女性心理が描かれてますが、過去と現在を行き来する構成も手伝って、先が気になってしまいます。

この小説は女性心理をリアルに〜とか、勝ち組と負け組の女の対立がリアルで…とか言われますが、私はそうは思いません。物語の中心にあるものは、とっても少女漫画的、ファンタジーの世界です。
女が少女だったころ、憧れたのではないでしょうか。こんな少女漫画に。孤独な女子が2人だけの世界をつくる。2人の間には親も入っていけない。死も友情を分かつことはできないだろう…。ゾワゾワするほど陳腐な少女漫画です。でも、それはやっぱり魅力的なのです。
その象徴が読んだ人誰もを惹きつける存在、ナナコです。彼女は(これまた少女漫画的ですが)不幸な家庭状況にあって、決して汚れません。小説ではぼやかされてますが、彼女は虐待受けている可能性、また貧困から売っていたのかもしれません。しかし、彼女は健気にも孤高なのです。こんな子は、現実にはいません。ファンタジーの園に住む女の子なのです。なので、現在大人になっていたとしても、大人になった彼女はでてきません。永遠の少女だから。

 ファンタジーの園から出なければならなかった少女葵と、ファンタジーに憧れた少女小夜子が出会う。これまたご都合主義ではありますが、カタルシスがあります。また出会って、別れていくのかもしれない、だが新しい関係が始まり、変化し、それでこそ生きて行く意味があるのだという作者のメッセージで物語の幕は閉じ、爽やかな読後感が残ります。

 登場人物の中でディスられがちな小夜子の夫ですが、変わっていく奥さんを見て、なんとなく焦ったり戸惑ったりしたのではないかと思います。少ない描写からもマザコンか、もしくは母に恐怖していたのかもしれませんが、変わった妻との新しい関係で、夫もまた成長したんじゃないかな?と思います。
それより木原の存在の方が不気味でした。何をするでもなくいるのに、盗んでいってしまう。なんだかこの描写リアル。もしかすると、大ベストセラー作家ゆえ、こういった男のトラブルに巻き込まれたか巻き込まれるのを見たのか、そういう経験があったのかも…と勘ぐってしまいました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 2016年読んだ本
感想投稿日 : 2016年6月16日
読了日 : 2016年6月16日
本棚登録日 : 2016年6月16日

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