妹さえいればいい。 (ガガガ文庫 ひ 4-1)

著者 :
  • 小学館 (2015年3月18日発売)
3.82
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本棚登録 : 542
感想 : 21
4

面白い。
そしてラノベというものについてつい色々と考えさせられてしまった。

同作者の『はがない』を読んでいる時は、後半から一気に作者が何かをこじらせていった様子が読んでいて興味深かった(ぎりぎり橋から落ちてなさそうで、でももう落ちちゃってるような具合だった)が、本作ではそのあたりを消化したうえで書いているようだった。

『はがない』のこじらせポイントとしては、ラノベのハーレムもので、ヒロインからの好意と主人公との関係性についてどう描くべきなのかや、一気にネタにされる頻度を高めた難聴系主人公などなど。
このあたりに対して、メタ思考と自己言及の渦に入り込んでいったのが『はがない』だったと思うが、今作では意図的にネタとして使っているところがけっこう出てくる。

以下、作中で気になった言葉に関して感想。

「お、俺だって、『はがない』の小鳩神とか、『俺ガイル』の小町神のような妹がいれば、妹のために本気で料理を習得している!」(p32)
>ラノベ作家の日常(?)を描いているだけあってか、実際のラノベ作品のタイトルがたびたび登場。速攻で『はがない』にも言及。

「今回は男友達もいる」(p37)
>「今回は」のメタ感。

「……え、なんだって? よく聞こえなかった」
「思いっきり反応しておいて聞こえなかったフリはさすがに苦しいんじゃないでしょうか」(p105)
>『はがない』の例の難聴をネタに、このあと軽快な応酬。次のと合わせて。

「んー。可愛い女の子に迫られてるのに曖昧に誤魔化して返事をしないまま体よくキープしているクズ野郎だと思ってて悪かったなーって」(p111)
>すでに返事はしているという設定。『はがない』でこじらせたあれこれから、(良し悪し置いて)先に進んでいる感じ。

「…………で、そんなよくある感じのサークルクラッシュ話を聞かされて俺はどうすればいいんだ。お前のことをこれから『小鷹さん』とでも呼べばいいのか」
「それは恐れ多いからやめてくれ。なんやかんやでちゃんと隣人部を守れた小鷹さんと違って、オレはサークル崩壊を止められなかったしな……」
(p204)
>『はがない』への言及は上にあげたのも合わせてやはり主人公のスタンスと周囲との関係性が中心。

『流し斬りが完全にはいったのに!』(p231)
>ソウルスティール


この作品自体がラノベ作家の日常を描くという作者自身をどこかに反映する作品であることに加え、『はがない』という自作への自己言及的な側面も強く、メタ×メタな作風。
そして、『はがない』で生じたものをいくらか消化しながら書かれているように思えるが、こうしてラノベとそのお決まりについてのメタ思考を繰り返してたら、またいつかどこかでこじらせそう(楽しみ)。

このこじらせっぷりを称して「ラノベ作家版 法月綸太郎」という称号を与えたい。

ところで『はがない』終わったの? って思ったら11巻出るのね。
ここまでこちらで言及してからの続きというのは果たしてどうするのか。期待してしまう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2015年8月11日
読了日 : 2015年7月21日
本棚登録日 : 2015年7月21日

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