レビュー by helplineさん
現代における〈距離〉の感覚を主題化した傑作だと思う。
現代においては、交通、通信の発達によりいくらでも距離を〈ショートカット〉できる。その気になれば、今日今から大阪にも仙台にも行けるし、大阪から友達を呼び出せることもできるという、そういう感覚をシャープな文体で切り取っている。
連作短編集なのだけど、標題作の第一話は合コンで変わり者の男が自分はワープした経験があるのだと語るのに耳を傾ける女性が語り手で、話を半分だけ聞きながら頭では長い間会ってない元カレのことを考えている。また、小説を読む読者にとっては、語り手の思い出/男の話/居酒屋の光景の三つのパート、つまり三つの時間と空間が交互に入れ代わり現れることになる。
これらは現代における空間と距離の感覚を象徴していて、つまりいま人は、ある場所に身を置おいて人と話しながら、ネットやケータイで別の場所にも繋がることができるし、複数の場所に〈存在〉することができる。
作中で語られる、突然大阪の友だちに電話をかけて今から東京に来いと誘うと友だちも「いいよ」と快諾するとか、突然飲み仲間が仙台行くって言い出して別の友達が福島に彼女がいるから途中で通過するって言い出す感じなども、現代では普通のものだろう。
この小説はほとんどそういう「距離」にまつわるエピソードだけでできており、それゆえにとても切れ味が鋭い。
ただ、この切れ味の鋭さとそのことによる心地よさは、それ以外のものをそれこそ〈ショートカット〉したところに成立しているとも思う。そういう現代人の感覚がどのような変化を主体にもたらすか、総体的に描いていくという課題については、他の作品で描かれていくことになるのだと思う。
レビュー登録日 : 2011年02月01日
引用
- 登録されていません。






コメント
まだコメントはありません。