ワーキングプア解決への道

制作 : NHKスペシャル「ワーキングプア」取材班 
  • ポプラ社 (2008年7月1日発売)
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感想 : 26
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本書は、「ワーキングプア」という言葉を世に知らしめたNHKの特集番組を本にしたもの。2006年のⅠ・Ⅱに続き、2007年に放映された第3弾をもとに作成されている。
番組はみていなかったが、以前Ⅰの本を読んで大変衝撃を受けた。
Ⅰ・Ⅱが実態を取材したもので、このⅢは視聴者の反響としても多くあった、その解決策を問うたもの。
お隣の韓国から、アメリカ、イギリスに取材し、再び日本の現状を伝えて、解決に向けたさまざまな現状を報告している。

海外を取材した意図は、より悲惨な現状を確認して日本に警鐘を鳴らすことだったらしい。
確かに、どの国も悲惨な状況に変わりがなかったが、番組作成チームの当初の仮説とは違った現実がそこにあった。
諸外国に比べて、日本はまだましかと考えていたのが、大きく見当違いだったことが明らかにされている。

韓国では非正規雇用者が過半数を占め「勤労貧困層」が急増しているが、すでに彼らを守る法律ができている。
米国でも医療保険制度の欠落など、国家の福祉システムにおいては劣っているものの、NPOの市民活動が極めて活発に動いている。
英国でも、貧困層の職業訓練のために民間企業の力を活用するなど、国の威信をかけて対策を講じている。
さらに英国では、日本でも問題になっている「貧困の連鎖」を断ち切るために、シングルマザーの母と子供を援助する施設や、チャイルドトラストファンドと呼ばれる、18歳になると、就職や就学のための一定の資金が得られる仕組みができているとのことである。

ワーキングプアの問題は、彼らに働く意志や意欲がないのではなく、環境や状況が、彼らに職を与えず、また最低限の生活もさせ得ない点にある。

グローバライゼーションと市場原理主義、そして極めて多元的に組織化された知識経済中心の社会は、極めて激しい競争社会となっている。
その競争がフェアならば問題ないのかもしれないが、当人には責任のない理由で、貧困の環から抜け出せない人がたくさんいる。そして、ワーキングプアに象徴される問題の行きつく先は、社会・経済・そして人間の破壊に至る。

ワーキングプアの問題については、国の政策的な解決が必要だと思う。
しかし、企業内や、地域社会の一員として、一人ひとりが関心を持ち、解決への道を模索していく必要があると感じた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 社会
感想投稿日 : 2012年1月28日
読了日 : 2012年1月28日
本棚登録日 : 2012年1月28日

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