よくこの作品のテーマは「神の沈黙」と言われているけれど、それ以外にも遠藤周作が最初期の「黄色い人」の転から題材にしていた「日本人と信仰」の問題や、イエスとユダの関係も大きなテーマと描かれている。(特にユダは最後の場面でも重要な役割をしている。)作者が追い続けてきた主要なテーマが混ざりあっていることこそが、この作品を傑作たらしめているんじゃないだろうか。
2012年5月10日
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猫だましい (新潮文庫)
- 河合隼雄
- 新潮社 / 2002年11月28日発売
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小説・昔話・漫画などに登場する「猫」を手がかりに、人間の「たましい」について考えてみる、というエッセイ。しかしいきなりユダの話題が出てきたのにはびっくりした。(詳しくは引用を。)「たましい」が目に見えないのと同じで、「たましい」について何か確固とした結論があるわけではないけど、そのとらえどころのなさもまた「猫らしい」。大島弓子さんの漫画が載ってるのも嬉しかったなぁ。
2012年3月18日
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百億の昼と千億の夜 (秋田文庫 2-1)
- 光瀬龍
- 秋田書店 / 1997年4月1日発売
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漫画版は再読。原作(小説)はSFを読みなれていない私にとってはSF特有の用語などが難解で、イメージが浮かびにくかったけど、絵として表現されているとスッと世界に入り込めた。難解さが減った分、苦しみや絶望が表現としてストレートに伝わってくる。原作ではあまり日の当たらない存在のユダが重要な人物になってるのも良い脚色。
2012年2月20日
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百億の昼と千億の夜 (ハヤカワ文庫 JA 6)
- 光瀬龍
- 早川書房 / 1973年4月1日発売
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萩尾望都の漫画版を先に読んだ。普段SFをほとんど読まないからだと思うけれど、漫画版を読んでいなかったらSF独特の用語やカタカナの多さに途中で挫折していたと思う。けれども宗教や哲学とSF的世界観との融合には圧倒される。中性的な阿修羅王が活躍するというのがまた象徴的だなぁ。
2012年2月9日
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キリストはふたたび十字架に 下: ギリシャ
- ニコス・カザンザキス
- 恒文社 / 1998年8月1日発売
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上巻から続く。展開の読めなかった作品だけど、最終的に完璧なまでの受難劇になっているのがすごい。ただ、誰もが聖人になれるわけではないということを、最終章の使徒役の3人が表現しているのかもなぁと思った。
2012年2月6日
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キリストはふたたび十字架に 上: ギリシャ
- ニコス・カザンザキス
- 恒文社 / 1998年8月1日発売
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物語としては先が読めなくて面白いし、人物もいきいきしている。でも、ギリシャとトルコの関係や、キリスト教(ギリシャ正教)の知識がないと理解しづらい部分も多い。ところで、ヨーロッパではユダは黒髪黒髭で描かれることが多いけど、ギリシャでは赤髭が一般的イメージなんだなぁ…
2012年2月6日
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聖☆おにいさん(7) (モーニング KC)
- 中村光
- 講談社 / 2011年10月21日発売
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ギリシャ神話や日本の神様などが新しく出てきて、一気に賑やかになった7巻。ゼウスには爆笑した。聖母&マグダラのWマリアも登場。ところで着ぐるみの中の弟子があとひとりわからない…。あのテンション高い弟子は誰なんだろう?
2011年11月24日
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侏儒の言葉・西方の人 (新潮文庫)
- 芥川龍之介
- 新潮社 / 1968年11月19日発売
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芥川によるイエス論である『西方の人』。彼はキリシタン物の作品も多く残してるんだよね。作者はこの時期、確実に自殺を考えていたはずだけど、文字通り自殺したユダにはそこまで思い入れはなかったようで、「殺された」もしくは「死ぬ運命にあった」イエスと自己を同一視している様子なのが興味深い。芥川の考えでは、誰でも裏切り者になる可能性は大いにあったけれど、それがたまたまユダだった、ということなのだろうか。あと、この作品に出てくるマリアはすごく悲しい存在に描かれていて印象に残った。注釈も細かくて参考になります。
2011年7月27日
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走れメロス (新潮文庫)
- 太宰治
- 新潮社 / -
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「駆込み訴え」は名作だと思う。独白を通してユダの心情が、愛情と憎しみ、尊敬と軽蔑の間を振り子のように揺れ動く。そして最後には、誰もがイメージする「裏切り者ユダ」の姿に収まっていく。ユダばかり注目されがちだけど、この作品に描かれたイエスもまた美しい。決して手の届かない存在であるイエス。ユダによって語られるイエスだからこそ、これほど美しいのかもしれない。
2011年7月28日
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白い人・黄色い人 (新潮文庫)
- 遠藤周作
- 新潮社 / 1960年3月17日発売
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遠藤周作の創作の原点である2作品。どちらにおいても「イエスとユダ」の関係が重要なファクターとなっているのが興味深い。これが後に『イエスの生涯』のユダ像につながっていくのだろうか。
遠藤周作のユダ像を知る上ではすごく面白かったし、そもそも遠藤周作の最初期の興味の中で「ユダ」が大きなウエイトを占めているとわかったのは収穫だった。
でも、『黄色い人』の方は、解説の山本さんが言っているように、あまりに図式的すぎると思った。ブロウはあまりにもイエスそのものすぎるし、デュランはあまりにもユダそのものすぎる。あまりにもこの2人が聖書のテンプレートにはまりすぎている。解釈の必要もないほどに。
まだ『白い人』の方が、聖書の写しそのままではない、複雑な人間の姿が描かれている気がする。
2011年7月7日
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ユダのいる風景 (双書時代のカルテ)
- 荒井献
- 岩波書店 / 2007年6月6日発売
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とても軽く読める「ユダ入門」的な本。著者本人も前書きで言っているように、前著『ユダとは誰か』がユダの聖書学的考察であるのとは対照的に、この本は、聖書や小説を含む様々な「物語」の中で、ユダが文学的にどのように表現されてきたか、に重点が置かれています。「ユダ像の解釈史」といってもいいかも。ただ、聖書を解説した前半は、軽すぎて説明不足になっているので、前半部分を詳しく理解したい場合は『ユダとは誰か』を読むことをおすすめします。
2011年7月8日
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キリストの誕生 (新潮文庫)
- 遠藤周作
- 新潮社 / 1982年12月28日発売
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イエスの死、使徒たちの死、そしてエルサレムの陥落。葛藤と絶望に満ちた原始キリスト教団の姿と、解けない「謎」を提示して、遠藤周作の語りは終わる。もしかしたらエルサレム陥落後、なぜ神は救いに来てくださらないのか、という疑問が蔓延したからこそ、その答えとして、原始キリスト教においてグノーシス主義が一定の勢力を持ったのかもなぁ。という仮説。
2011年7月5日
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イエスの生涯 (新潮文庫)
- 遠藤周作
- 新潮社 / 1982年5月27日発売
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研究文献を引用しつつも、小説家としての想像や創作を多分に盛り込んで描いた、愛に溢れるイエスの生涯。蔑まれ死んでいったイエスとユダの間の、奇妙な同一性やつながりは興味深い。ユダ本人は、自分の裏切りが後々まで記憶される運命にあるとまでは予想しなかっただろうと思うけどね。
2011年7月1日
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NHKこころの時代~宗教・人生~ 福音書のことば(下) (NHKシリーズ)
- 雨宮慧
- 日本放送出版協会 / 2010年9月25日発売
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おそらく聖書学の一般的な方法論に基づいて「テキスト分析」をしてるんだけど、聖書学の専門書や論文なら、ヘブライ語の原文をそのまま載せれば済むところを、(一般向けのテキストなので)原文の代わりに日本語の逐語訳を載せることで対処しているので、かえって話がややこしくなってるかもしれない。ヘブライ語の文法的説明をする必要があるのにヘブライ語そのものを一切使えない、というこのやり方は、筆者さんにとってものすごく大変だったと思う。
2011年6月25日
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福音書のことば 上: 旧約聖書から読み解く (NHKシリーズ NHKこころの時代)
- 雨宮慧
- NHK出版 / 2010年3月1日発売
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著者さんはカトリック。テキスト分析に基づいた聖書学の入門書のような本。「赦し」をテーマにした第六回で、ユダとペテロの「罪」が比較されています。あと19ページ(第一回)に出てくる「生まれてこない方が良かった」の歌の話は深い。これを念頭に置いてマタイ26章24節を読むと解釈が変わるかもしれない。
2011年6月19日