イロイロ»
読んだ本とか、読みたい本とか。勁草書房とか、東大出版会とか、Oxford U.P.とか。最近は小説ばっかり。
レビュー by asukaさん
脳神経科医オリヴァー・サックスによる短編エッセイ集。
やはり出色は表題の「火星の人類学者」だ、とおもう。
印象的なのは、自閉症のテンプル・グランディンが、神や宇宙を極めて具体的な何かとして捉えていることで、たとえば彼女にとって「天国の扉」とは屋上へ通じる扉であったりする。
また彼女は豚や牛といった家畜の気持ちはよく理解できる。しかし霊長類の気持ちはまったく理解できない。適切に行動することならできるが、「感じとる」ことはできない。
彼女は、膨大なデータベースを自分の中に作り上げ、それを参照することによって人間社会に適応している。ある行動に出会ったとき、類似の行動をデータベースの中から探し出し、どう対応すべきかを決定する。
同時に彼女は無意識を持たないという。抑圧された記憶というものがない。彼女の記憶は極めてビジュアルで鮮明であり、細部までくまなく残っている。
つまり彼女にとってすべてのものはなんらかのモノとして存在していて、細部にわたってひとつひとつ名前をつけて保存できるものであり、曖昧な領域は残されていない。
だからだろうか。彼女の願いはひどく率直だ。
「図書館には不死が存在すると読んだことがあります……わたしが死んだらわたしの考えも消えてしまうと思いたくない……なにかを成し遂げたい……権力や大金には興味はありません。何かを残したいのです。貢献をしたい--自分の人生に意味があったと納得したい。いま、わたしは自分の存在の根本的なことをお話ししているのです」(p.398)
ここには自分が存在したことへの切実な欲求がありありと示されている。
レビュー登録日 : 2011年04月02日
引用
- 登録されていません。






コメント
まだコメントはありません。